第5話

 ホーンラビット狩りを始めた俺と店長は、見つけては倒しの繰り返しで、コンビニの近所を走り回っていた。

 ちなみに倒したホーンラビットは食えるかもしれないと店長が言い始め、車の荷台には多くのホーンラビットの死体が積まれていた。

 1時間も経つ頃には10体近くのホーンラビットを仕留め終わり、荷台もいっぱいになってしまった。

 そろそろコンビニに戻ろうかというところで、小橋から電話がかかってきた。


「もしもし?」


「あんたたち店にも戻らないでなにやってるのよ!」


 携帯が音割れするほどの大声で小橋が怒鳴ってきた。横にいる店長にもその声が聞こえたようで苦笑いしていた。


「悪い、今すぐ戻る」


「ちょっ……」


 俺はすぐに電話を切った。怒られるのは帰ってからにしたかった。疲れていてそれどころじゃない。

 そして、ホーンラビットを倒していくと、ある仮説が生まれていた。


 

モンスターを倒すと、ゲームのレベルアップのように成長するのでは?

 


これは俺と店長が導き出した仮説で、それが正しいかどうかはわからない。しかし、ホーンラビットを倒すにつれて、木刀を振るう速さや、ホーンラビットの受けるダメージが明らかに増えていることがわかっていた。

 俺は元々そんなに速く木刀を振れるわけでもないし、まして動物を吹っ飛ばすほどの力ももちろん持っていなかった。

 しかし、その仮説がもし本当だとすると簡単に説明がついてしまう。もちろん何か別の要因があるかもしれないが、今有力なのはレベルアップ説だった。


「人間がレベルアップって……。本当にこの世界はどうなっちまったんだよ」


 俺は何もかも変わってしまったこの世界に悪態をついた。1週間前までの平和な日常はいつ戻るのか全く見当もつかなかった。


「松藤。このレベルアップってやつらそのうちみんなが気がつくんじゃないか?」


「そうかもしれないですね。ただ、一つ疑問があって。今自衛隊や警察もモンスター討伐にあたってるじゃないですか?日本だけじゃなくて他の国も軍隊が動いています。もちろん俺みたいに木刀を振るうんじゃなく、銃を使ってます。でもそんな話をテレビでは聞いたこともない」


「たしかにそうだな。倒す人は一日に何百体も倒していると聞くし、そんな人がレベルアップしていたらすぐに気がつくはずだもんな」


 俺と店長はこのレベルアップについて、帰り道でずっと頭を悩ませていた。


 


「あんたたち何やってたのよ!」


 コンビニについた俺と店長は、店に入るなり小橋に怒鳴られていた。レベルアップのことで頭がいっぱいで、小橋が怒っていたのをすっかり忘れていた。


「店長が俺を鍛えるためにあちこち連れ回しました」


 俺はすぐさま店長を売った。こうなった小橋はかなり面倒くさいのを知っていたからだ。


「店長!私たち女2人を残してそんなことやってる場合じゃないでしょう!もしコンビニにモンスターが来たらどうするんですか!」


「いや、それは、申し訳ない……」


 店長はそのあと5分ほど小橋の説教を受けていた。マジでこえーな小橋。あまり怒らせないようにしよう。

 俺は怒られる店長を置いて、休憩室で体を休めることにした。休憩室では栞ちゃんがテレビを見てくつろいでいた。


「お帰りなさい松藤さん。遅かったですね」


「ただいま。遅かった理由については店長が今怒られてるよ」


 そして俺はレベルアップの件も含めて、栞ちゃんに何があったのかを説明した。


「……それは不思議ですね。色々考えないと分からないこともまだ多いです」


「そうなんだよな。とりあえず俺は着替えてくるよ」


 俺はトイレで着替えることにした。またホーンラビットの返り血で服がベトベトだった。

 着替え終わる頃には、小橋の怒りもおさまったようで、2人ともすでに休憩室に戻っていた。


「結局松藤くんがレベルアップしたっていうのは本当なの?」


「ああ、間違いない。ホーンラビットが吹っ飛ぶくらいには力が増えている」


「じゃあ元よりも力が何倍にも増えているのよね?極端な話、ドアノブをひねったり、ドアを閉める時にも力加減を間違えたら壊しちゃうってこと?」


 小橋はレベルアップの仮説について色々考えたようだった。たしかに小橋の言う通りで、ただ単に力が増えるだけなら、あちこちの物を壊してしまいそうではあるが。


「今のところそういう事はないんだよな」


 ホーンラビットを狩ってからも、日常生活を送る上で特に変わった様子はなかった。

 物が軽く感じることもまったくなく、いつも通りという感じだった。


「それはおかしいな」


 店長も小橋の質問について疑問があるようだ。


「俺は松藤の力を見ていたが、ホーンラビットを狩るにつれて力が強くなっているのは間違いはなかった。でも普段の生活で今までと何も変わらないとすると……。松藤、ちょっと店の前に出るぞ。木刀も持ってこい」


 店長はなにか思いついたようで、俺を連れて店の前に出た。

 

「とりあえず、その辺の小石を全力で遠くに投げてくれ」


「いいですけど、なにか関係があるんですか?」


 俺が店長に質問すると、早くしろと急かされたのでとりあえず小石を全力で投げた。

 小石は50メートルほど先まで飛んで行った。まあ、普通の記録じゃないか?


「次は木刀で小石を打ってくれ。野球のノックのイメージで」


 次に店長は木刀で小石を打てと言ってきた。何の意味があるのか分からなかったが、文句を言う理由も特にないので、とりあえずやってみる。

 俺は小石を上に放り投げて、木刀をバットのように振り小石を打ち上げた。


「……嘘でしょ」


 俺が打ち上げた小石は凄い勢いで遠くに飛んでいき、そのうち見えなくなってしまった。ちなみに俺は友達と草野球を遊びでしかやったことしかないし、ホームランなんて打ったこともなかった。そんな俺が、小石を見えなくなるほど遠くに打てる理由はやはり、レベルアップしたというのは間違いなさそうだが。


「やはりな」


 店長はニヤニヤした表情でそう呟いた。


「どういうことなんです?俺自身もびっくりしてますけど」


「俺の中で新しい仮説が生まれた。まあ2人にも聞かせてやりたいし、中に入るぞ」


 そう言って店長は店に入ってしまった。


「どういうことだよ」


 俺は店長が何を考えているのか分からなかった。



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