第4話
ツノウサギとの戦闘を終えた俺たちはやっとの思いでコンビニに到着することができた。大学から出発して、2時間近くが経った頃だった。
「ようやく着いた」
小橋と栞ちゃんもぐったりした表情をしていた。普段からこんなに歩くこともないから当然か。
「2人とも大丈夫か?」
「到着してほっとしたらドッと疲れが押し寄せてきちゃったかも」
「私も、もう、歩けません」
「とりあえずコンビニで休ませてもらおう」
俺たちはコンビニに入ると休憩室の方に向かった。
「店長ー?いますかー?」
「おう、松藤に小橋じゃないか。助けられたんだな」
店長は休憩室でテレビを見ていた。テレビではモンスターのことをずっと放送していたみたいだ。
「ええ、なんとか。あと小橋の友人の栞ちゃんも」
「こ、こんにちは。後藤栞です」
「とりあえずみんな無事でよかったよ。今日からしばらくここに泊まっていけ。日本全国とんでもないことになってるみたいだからな」
テレビのニュースでは日本全国で既に10万人以上の人が亡くなっているという予測が立てられていた。しばらく外にも出たくないな。
「松藤はとりあえず着替えてこい。随分血生臭いぞ」
そう言って店長は新品のTシャツを俺に投げ渡した。
「へいへい。ありがとうございます」
そんなにストレートに臭いなんて言わなくてもいいじゃないか。頑張ってきたんだから。
俺はコンビニのトイレで着替えることにした。今日は一日バタバタとしていたからゆっくり休めそうだな。
その日、俺たちはコンビニの入り口にバリケードを作り、休憩室で一夜を過ごすことになった。
◇
モンスターが発生した日からすでに1週間が経ってしまった。
水道や電気などのライフラインはいまだに止まっておらず、なんとか生活していけるレベルだった。
あちこちに発生した黒い渦から現れた生物は、モンスターと呼ぶことになり、政府の公式サイトでは、様々な種類のモンスターの写真と名前が掲載されていた。ちなみに俺がツノウサギと呼んでいたモンスターはホーンラビットと名付けられたようだ。
そして、あの黒い渦が発生したのは日本だけでなく世界中で発生したようだった。
世界各国でも日本と同じようなモンスターが発生し、かなりの被害があったようだ。
日本では、自衛隊などがモンスターの討伐に当たっていたが、その数は全く減ることは無いようだった。倒しても倒しても、また黒い渦からモンスターが現れていた。
そんな中、俺と店長はコンビニの近くの臨時避難所へ食料を運んだ帰りだった。
コンビニにあった消費期限が近い食料が多くあり、処分するのはもったいないということで、1キロほど離れたところにある市民体育館に持っていこうという話になった。
体育館までは店長の軽トラックで運ぶことにした。
「あちこちモンスターだらけだな」
車で移動してる時も、何体かモンスターを見かけた。1週間前よりも、近所に多くのモンスターがうろつくようになっていた。
「松藤はこのまえモンスターを倒したんだろう?」
「そうですね。ホーンラビットって呼ばれてるやつです」
「少し鍛えておいた方がいいんじゃないか?実際ホーンラビットの時も危うかったんだろう?」
たしかに店長の言う通りだった。まともに木刀も振れていないのは自分でも自覚していた。
「でもどうやって鍛えるんです?」
「ホーンラビットを倒すんだよ」
「……は?」
いやいや。何を言い出すかと思えばわざわざホーンラビットを倒しに行くって?今度こそ死んじゃうって!
「あの時は必死だったから倒せただけかもしれないですよ?もう一回戦っても、もしかしたら負けるかもしれませんし」
「そうなった時は俺がサポートする。日本刀も持ってきているしな。お前も木刀持ってきているじゃないか」
「これは万が一のために持ってきたんですよ……」
そんな話をしていると店長は急に車を止めた。車を止めた理由は30メートルほど前にいたホーンラビットだろう。
「……マジでやるんですか?」
「ああ、当然だろう?それに女の子2人を簡単に守れないようじゃこの先心配だからな」
そういって店長は日本刀を持って車降りていった。俺も渋々それに続くようにして車を降りた。
ホーンラビットは既にこちらに気がついたようで、俺たちを見つめていた。
「よし、松藤。行ってこい!」
「はあ。危なくなったら助けてくださいよ!」
俺はホーンラビットに向かって走り出した。ホーンラビットも俺が走り出したタイミングで戦闘態勢に入ったようだ。
この前は不意打ちできたが、今日はこの前のように上手くはいかないかもしれない。
俺は途中で足を止めて、ホーンラビットを迎え撃つことにした。この前仕留めたものよりも大きい個体で、1メートルはあろうかという大きさだった。
ここで俺は木刀を体の真横に構えた。いわゆる抜刀術のような構えだった。
ホーンラビットがあと5メートルほどのところまで近づいたところで、俺は全力でホーンラビットのツノに向かって木刀を振り上げた。
ただ、それで簡単に仕留められるわけはないと考えていたので、すぐに回避ができる態勢を取っていたのだが。
「え?」
ホーンラビットは5メートルほどの高さまで吹っ飛び、地面に叩きつけられると頭を打ったのか、体をピクピクと痙攣させて気絶しているようだった。
俺はすぐさま、サバイバルナイフでホーンラビットの首元を切り、確実に仕留めることができた。
「なんだお前、今まで言ってたのは大袈裟だったんじゃないのか?簡単に仕留められるじゃないか」
店長が戦闘が終わったと判断し、話しかけてきた。
「いや、こんなはずは……。まずホーンラビットがあんなに吹っ飛ぶほど軽いわけがないんです。」
この前戦った時には、ホーンラビットの突進を受け流す時も、かなりの重量を感じていた。なんとか受け流せるというレベルだったのが、ただ木刀を振り上げただけであんなに吹っ飛ぶとは考えられなかった。
「まあ、そんなに簡単に仕留められるならいくらでも鍛えられそうだな。次に行くぞ」
店長はそう言うと車に乗り込んでしまった。俺は多くの疑問を抱えながらも、店長の車で色々考えることにした。
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