第26話 金木犀を纏う君

 公園のベンチに座り、カフェオレのカップを傾ける。こくりと喉を鳴らせば、ふちから湯気と香りがふわりと昇る。

 色づきかけた銀杏いちょうの並木と、落ち葉の舞う歩道が僕の秋を彩っている。近くの広場で子供たちのはしゃぐ声が上がり、目の前の道をお喋りしながらウォーキングする大人たちが通る。

 そんな風景の中でも何故か、一人の女性に目がいった。深い緋色のロングスカートと足元のショートブーツが楽しげに弾む。

 目の前を過ぎる時、長い髪がふわりと風になびき、彼女の細い指先がその耳朶じだを滑った。遅れて流れてきた風は金木犀の甘い香りを含んでいる。

 特別なことは何もない。ただ記憶の片隅でこの季節には思い出すのだろうなと、確信めいた予感がした。

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