第24話 屋上の風

 屋上から見える景色を描くのが好きだった。そこへ続く階段を上る。最後の踊り場をくるりと回った先に、彼が居た。

 はっと顔を上げた彼と視線がぶつかる。時間が止まり、息も止まる。赤くなった目元と、頬に残る線。

 再びぽろりとしずくが流れ落ち止まっていた時が動き出す。彼は慌てた様子で顔をそむけ、ごしごしと目をこする。とっさに声を上げてしまう。


「屋上、上がってみる?」


 ぴたりと彼の手が止まった。彼を視界に入れないように階段を上り、振り返らないままそこへ繋がる扉に手を掛けた。


「私のお気に入りの場所」


 特別に招待してあげると続けると、後ろで彼が近づく気配がした。ほっとして扉を開ける。夕日を浴びて吹く風がきっと涙もさらってくれる。

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