第22話 衝動の先の出会い

 仕事に疲れ、気の向くままに乗った電車。改札を抜けて駅舎から出ると微かに潮の香りが風に混じる。海が近いのか。そんな感想を抱きつつ、人の流れに乗った。波の音が近い。大きな通りを渡り砂浜へと繋がる階段を降りた。

 もうすっかり陽は落ちて、暗い海岸線には車のヘッドライトだけがすーっと通り過ぎる。

 革靴で踏み締める砂の感触に立ち尽くす。すると、何やら波打ち際に影が見えた。

「どうしたの」

 自分の声に驚いた。声を掛けるつもりなんてなかったのに。

「あ、探し物で」

 大事なものだからと続く言葉は震えていた。

「この辺?」

 暗闇でも彼女が目を見開くのが分かった。

「手伝うよ」

 僕がこの場所に居ることに、意味を付けてくれた君のために。

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