第20話 夜更けの音色(第九十一回 #Twitter300字ss お題「謎」)

 夜遅く、誘われるようにまぶたが揺れた。夢とうつつの境目に、闇をまとったフルートの音色が迷い込む。眠りを妨げたはずのその音が、今度は眠気を引き寄せる。誰が、何故こんな夜更けにと、微睡まどろみながらも不思議に思う。これは現実なのか、自分にしか聴こえぬ幻なのか。

 ある日、眠れぬままに夜が更けた。世界から取り残された心細さを抱えつつ、静寂はどこか優しい。悪い方へとめぐる思考に溜息ひとつ。その時、微かに、でも確かに、それは聴こえてきた。

 どくん、と鼓動が跳ねる。謎が解かれる予感に緊張が走り、息が浅くなった。

 一歩、窓に近づき震える手を伸ばす。でも。『謎は謎のままにしておきたい』そう考えた自分が可笑おかしくて。

 眠れぬ夜も悪くはない。

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