第14話 愛でていたのは

 薄桃色を飾った枝がゆらゆら揺れた。重たそうな花を抱える細身の枝の真ん中あたり。気のせいか、と視線を外そうとするタイミングでまた揺れる。

 視線が揺れる。少しばかりもてあそばれているような気になった。むむむ、とその木を凝視する。


 かさかさ、ゆらり。


 薄桃色の奥に居る、まるんとしているその姿。花をついばみ、揺れた枝に慌てて羽ばたいた。くすりと小さな吐息が聞こえ、とくんと心臓が跳ね上がる。


「可愛いですね」


 貴女の声は想像していたよりもわずかに低く、何だかほっとした。僕の想像ではない貴女がちゃんと存在している証のような気がしたから。

 毎日ここで桜を見上げる貴女に声を掛けたくて花をでるふりをしてたこと。貴女はまだ、知らない。

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