第12話 輝く宝石は(第八十四回 #Twitter300字ss お題「捨てる/棄てる」)

 揺れる橋の上に人影があった。下を見れば谷底に細く流れる川がある。歩みを遅くして様子をうかがうが人影は動かない。回り込む道もなくすれ違う他はなかった。内心溜息を零しつつ、えて気配が伝わるように足音を立てて近づく。

 どうやら女性のようだ。何故こんな山奥でと考えつつ、会釈えしゃくくらいはしておくかと視線を上げて息を呑む。


 彼女の涙がするりとほおつたい、一瞬止まって谷へと吸い込まれる。

 西陽が差し込み輝く宝石が落ちていくようで目が離せなかった。息が詰まりどくどくと脈打つ鼓動は、足を止めたことで感じる揺れへの恐怖か、それとも。


 彼女がこちらを振り返る。ごめんなさい、すぐ退きますと言うその手から、鈍く光る指輪が一つほうられた。

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