第11話 人形の恋

 古い日本家屋の奥座敷。どこかひんやりとした空気が流れるそこに飾られた人形たちが、さわさわとささやきあっていた。桃の節句のこの時期に、女雛めびなの姿がどこにもない。不穏な噂話が飛び交った。

 男雛おびなは俯き拳を握る。三人官女はおしゃべりな者たちを視線で黙らせて、男雛を気遣い酒を注いだ。

 その時微かに足音が聞こえ、囁き声は一瞬で消え去った。静寂の中にぱたぱたと軽い足音だけが響く。


「おかあさん、早く早く!」

「走っちゃだめよ。また怪我をしたら、お姫様が可哀想でしょう?」


 小さな女の子の手の中には、恋焦がれた女雛の姿があって。男雛の瞳が輝いた。潤んだ瞳と視線が絡まりあう。三人官女の安堵の溜息は、母娘の耳に届くことはなかった。

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