第8話 月船

 暗い森の奥深く。月へと渡る船の噂を聞きつけて、僕は夜ごとに森を彷徨さまよった。今宵こよいは新月で、星影だけがひそりと輝き影を作る。たかが噂に無駄なことをと溜息吐いた時、しゅわりと何かが近づいた。

 白く薄く静かに、けれど確かにそれは広がって。あれよあれよと視界はかすみ、気づけば腰まで霧の海。ぽわんと奇妙な音がして咄嗟とっさに腕で顔かばう。白いもやが巻き上がり、冷たい風が一緒にぴゅるりと流れ行く。

 そろりと辺りをうかがえば、一艘いっそうの屋形船が現れた。ぎ手はそれにそぐわない、色白の細い女性が一人きり。ついとらした瞳が美しく。僕はたちまち捕らわれる。船を求めた理由も忘れ、僕の心は彼女へ向かう。

 森の何処かでふくろうが寂しく鳴いた声がした。

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