第7話 月に酔う

 もう何回目のデートだろう。それでも毎回緊張してしまう。今日は月が綺麗に見えるらしいよと苦しい理由をつけた。君はすぐに返事をくれて、安堵のあまりしゃがみ込む。

 自宅の狭いベランダに椅子と台を用意して、ドキドキしながら君を待つ。

 やがて君が訪ねて来て、ふたり静かに月を眺めた。

 月見酒なら日本酒だろうと安易なセッティング。さかずきに月明かりを受けて、震える指先で口へと運ぶ。林檎りんごのような甘やかな香りと君の横顔に、何だか頬が熱くなる。ほうっと余韻を噛み締めて、美味しいとささやいた。

 目が合ってふわりと笑みが零れたけれど、君はすぐに月へと視線を戻す。僕と同じ色の頬。そっと唇で触れてしまう。

 君と僕、ふたりで月に酔ったみたい。

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