第6話 日暮れの灯り

 それに気づいたのは今と同じ季節だった。夕陽に染まる丘、絵に描いたような美しさに見惚みとれていた。

 不意に視界の隅で黒い影がゆらりと動く。薄暗くなった丘の上、葉を落とした木の枝に小さな影ひとつ。鳥でもいるのかと目を凝らしても見えなくて。その内辺りが暗くなる。それから僕は日暮れに丘を見るようになった。あの影は気紛きまぐれに現れては暗闇に溶け、正体は分からぬまま。

 そして今日、僕はとうとう葉の落ちたあの木のそばまでやってきた。既にあの影は見えている。高鳴る鼓動を抑えてそっと近づく。


 ふわりと風になびく髪。ひとりの乙女が一心に沈む街並みを眺めていた。その眼差しの先では小さな灯りがぽつぽつと生まれ、命を受けて輝いている。

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