第3話 数分間のコンサート

 歌声が聞こえる。夜が明けるかどうかの微妙な時間帯。空はうっすら光を受けて、まだ星が輝いている。

 いつからなのか覚えてはいないけど、僕は毎朝その声を聴くためにほんの少しだけ早く家を出る。

 駅までの道を少し逸れ、小さな公園のベンチに腰掛けて。手にした缶コーヒーを飲みながら歌声に耳を澄ます。視線は遠くの星へと向けて。

 僕の為だけに開かれる、たった数分間のコンサート。

 なんて、僕の存在すらも知らぬ相手に何を期待しているのだか。自惚れの過ぎる思考を自嘲する。

 余韻に浸りつつ、空になった缶をゴミ箱に放る。何の気なしに見上げたその窓に常にはない人影があった。

 初めて交わる視線がカチリと音を立て、2人の世界が重なりあう。

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