岩の顔
ツヨシ
第1話
小学校に何の前触れもなく、一つの噂が広まった。
近くにある神社に大岩がご神体としておかれているのだが、その昔に大岩を運んだとき、その岩の下敷きになった人がいるという。
そして夕方、日が暮れる前にその大岩を見ると、岩にその人の顔が浮かんでくるのだそうだ。
それを聞いてひろきは変だと思った。
神社も大岩も何百年も前からある。
それなのに九歳になるまでそんな話は聞いたことがなかったからだ。
しかし噂はあっという間に学校中を汚染した。
――誰かが面白おかしく言い出したことが、たまたま広まったのだろうか。
最初はそう思ったひろきだが、自分でもわからないほどなぜかその噂が気になって仕方がない。
学校から家に帰っても落ち着かないのだ。
そこでひろきはとりあえず神社に行ってみることにした。
ひろきの家から神社まではそう遠くはない。
ほどなくして神社についた。
日没前の神社には誰もいなかった
噂を確かめに来る小学生も。
少し暗くなりかけていたが、見えない程ではない。
ひろきは大岩を見つめた。
するとまるでひろきを待っていたかのように、大岩に何かが浮かんできた。
――!
顔だ。
しかも若い女の顔に見える。
見間違いとか岩の影ではない。
目、鼻、口、長い髪に顔の輪郭までがはっきりと見える。
その目には瞳まであるのだ。
おまけにその瞳は、明らかにひろきを見ていた。
――ひっ!
怖くなってひろきは家に逃げ帰った。
そして自分の部屋で小さくなっていたが、ふと気づいた。
大岩を運んだ人が岩の下敷きになったと聞いた。
そうすればそれは男でなくてはならないはずだ。
しかし岩に浮かんできたのは女の顔なのだ。
――どういうこと?
すると玄関から「ただいま」という声が聞こえてきた。
祖母だ。
この辺りでは物知りと評判の。
ひろきは部屋を出て、祖母に聞いてみた。
「ばあちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい」
「学校で大岩に顔が浮かんでくるという噂があって。なんでも大岩を運ぶときにその下敷きになった人だとか。この話、ばあちゃん知ってる?」
祖母は少し考えてから言った。
「そんな話は知らないね。あの大岩をあそこに置くとき、若い女を人柱にしたという話なら聞いたことがあるけどね」
と。
終
岩の顔 ツヨシ @kunkunkonkon
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