第5話 俺の家①
この家は高校生になる時に買ったものだった。
男子高校生の一人暮らし。部屋が汚くなるのは当然だったが、それは高梨が家に来るようになってからは解決した。
部屋の趣向は少し凝っているつもりだ。何しろ金はある。最初はデザイナーを呼んで、部屋の内装をコーディネーションしてもらおうかと思ったのだが、かなり高額になるので辞めた。だから自分のセンスが全面に出ているといえる。では、さっそくだが俺の家を紹介しようか。
最寄り駅から徒歩七分。阪神沿線の人気の住宅地にある、築八年のマンションの一室だ。五階の2LDKで、部屋は俺の私室とリビングルームの二部屋ある。
広めの玄関からトイレと洗面所が繋がっている。ドアを挟んでリビングルームがあり、その奥が俺の私室だ。
リビングルームに入ってまず目を引くのは、壁に飾っている十四丁のエアーガンだろう。俺は中学生の時にサバイバルゲーム、通称サバゲーを題材とした漫画にハマり、自分でもエアーガンを買ったのだった。七丁ずつ、縦二列で網に引っ掛けて飾っている。この十四丁は俺のお気に入りで、私室にはもっと沢山ある。まじでかっこいいぞ。
ちなみに、サバゲー自体はほとんどしたことがない。出来るところが少ないのと、十八歳以上の年齢制限が大体あるからな。威力の強いエアーガンも十八禁だし……家にあるけど。
一回だけは友達と大阪のゲーム施設でやったことがある。もちろん、年齢制限のないハンドガンを使って。その時はサバゲーの出来るスペースが小さくて、あまり面白くなかった。
しかし、エアーガンはやはり男の浪漫だ。見るだけでもカッコいい。持つのも良いし、撃つのは最高だ。一番好きなのはリボルバー。渋すぎるぜ。
そして、エアーガンの横にあるのがプラモデルである。主に第二次世界大戦で使われた戦闘機、戦艦、空母、戦車が多い。
この中で実際に自分が作ったのは零戦と戦艦大和だけだ。プラモデルを組み立てて、色を塗るのがかなり時間が掛かるんだよな。やりがいや、出来た時の感動はその分大きいのだが、飽き性な俺には長く続かなかった。その他のプラモデルは元々色が付いていて組み立てるだけの物や、完成品を買ったのも少しある。
さらにプラモデルの横にあるのがフィギュアである。といっても、四体だけだ。有名なアニメキャラの美少女が可憐なポージングをしていた。……もっとエッチなのは私室にあります、はい。それと、アメコミのヒーローのフィギュアだね。
壁にはポスターが並んでいる。元々はアニメのポスターばかりだったのだが、高梨が来るようになってからは映画のポスターに変えた。美少女ばかりのアニメのポスターを見られるのは恥ずかしい。ということで、主に好きな洋画のポスターを貼っていた。
そして、テレビにプレステ、カーペットの上には机があり、横にはソファー。キッチンの近くに冷蔵庫。それから、私室のドアの近くに俺の勉強机とパソコン、こだわりのデスクチェアがある。座り心地がめっちゃいい。大体、こんなものかな。家具にもこだわりがあるんだけど、それはまた今度ということで。
そういえば、本棚のことを忘れてた。といっても、普通の本棚だ。漫画と小説、ビジネス書籍が棚に入らなくて、棚の上に山を作っている。最近は電子書籍を買うので俺の本は増えていないが、高梨の持ってきた漫画や高梨のために買った(もちろん俺も読む)漫画が存在感を増している状況だ。
ソファーの色は緑で、カーペットとカーテンは白色だ。清涼感が大事だよな。ソファーの上には可愛いぬいぐるみとふわふわのクッションが乗っている。毛布も置いてた。
私室は主に寝る時ぐらいにしか使っていない。ベットとクローゼット、本棚ぐらいだ。
俺は今、紅茶を飲みながらパソコンで個人投資家のブログを読んでいた。窓を見ると、外は家の中にいるのが勿体無いと思うほど快晴だ。
肩を回し大きく伸びをして、とうに冷めている紅茶を飲み干した。時刻は三時を過ぎている。
高梨はソファーの上で寝ていた。すぅすぅと時折小さな寝息をたてている。
キャラクターの描かれたクッションを抱きしめる美少女の寝顔は、まるで天使のようだった。高梨の寝顔を見るのはこれが初めてではないが、何度見ても魅力的である。
俺は起こさないようにそっと近づき、上から彼女を見下ろした。
「おーい、もうそろそろケーキ食べない?」
小声で声をかけるが、彼女が起きる様子はなかった。俺は静かに手を伸ばし、彼女の髪に触ってみる。そのまま手を頬に触れさせた。
いや、勝手に触るのは良くないと思うけど……高梨があまりにも無邪気な寝顔を俺に晒しているからさ……。そもそも、男の部屋で無防備に眠る高梨が悪いんじゃないか! と責任転嫁しつつ、彼女の寝顔を眺める。
やばい。めっちゃ髪の毛さらさらじゃん。頬っぺたもすべすべで、ぷにぷにだ。まじで気持ちいい。
俺は調子に乗って、さらにつんつんと頬に触れる。すべすべ、ぷにぷに、すべすべ、ぷにぷに。
…………これは凄い! 「すべぷに」だ! これはまさに「すべぷに」だ!! 「すべぷに」最高! やべえ「すべぷに」が気持ち良すぎる!! 「すべぷに」革命だ! 「すべぷに」はまるで麻薬ようだ! 「すべぷに」は世界を救うかもしれない! 「すべぷに」よ、あまり俺を骨抜きにしないでくれ!!
まったく、「すべぷに」は最高だぜ!!!
「んんっ……」
高梨が身動きした。俺は急いで彼女の頬から手を離した。
…………俺は今何をしてたんだ……?
「…………大月?」
高梨が目を開けた。寝惚け眼をこすりながら身体を起こす。かわいい。
「……何してるの?」
「……すべぷに」
「すべぷに?」
…………すべすべぷにぷにの略だよ。
「……ケーキ食べる?」
「食べる」
「持ってくるわ」
俺はそう言って、高梨に背を向けた。
「このケーキはどこで買ったの?」
「すぐ近くにあるケーキ屋さん。ここから歩いて五分もかからないところの」
「あそこか。私も気になってたんだ。大月の家に来るまでに前を通るから」
「ネットによると、結構美味しいらしい」
「そうなんだ。大月はどっち食べる?」
「俺はどっちでもいいよ。好きな方選んで」
「じゃあ、私はモンブランかなぁ」
「おっけー」
俺はいちごのショートケーキになった。さっそくフォークで一切れ食べる。美味しい。
神戸市は洋菓子で有名だ。至る所にケーキ屋がある。俺の家の付近でも徒歩圏内に二軒もケーキ屋があった。ちなみに、神戸で有名な洋菓子は大体百貨店に行けば買えるのでわざわざ神戸に来る必要はない。神戸のお土産はどこでも買える。
「うん、美味しい……」
高梨はめちゃくちゃ幸せそうに、一口一口を大切に食べていた。
「……ケーキ、ありがとね」
高梨の姿を見ていると、不意に彼女が微笑みながら俺を見た。
「お、おう。どういたしまして」
高梨の微笑みは破壊力が高かった。
普段は気怠げで眠そうなのにお菓子を食べるときは嬉しそうに笑うなんて、ギャップ萌えだ。ずるいと思います。
「……ん? 一口いる?」
「じゃあ、貰おうかな。ショートケーキも食べていいよ」
「貰う」
俺と高梨はご飯を食べるときに、お互いのものを交換するのが普通になっていた。ただ、今日は斉藤さんの言葉を思い出してしまって食べづらい。
「ん、ショートケーキも美味しい」
「それは良かった」
「うん。今日、咲良が間接キスって言った時は動揺したけど、もう慣れたというか今更って感じだよねー」
高梨はそう言って笑った。
いや、俺はまだ心の中では結構意識してるんだけどな! さっき、天使のような寝顔を見たのも影響しているのかもしれないけど。こいつ、クラスの中では存在感がないだけで、二人きりの時はめちゃくちゃ可愛いんだが。
「このケーキって前言ってたやつ? 私が副委員長やる条件みたいな」
「まあ、そうだな」
春休みの時に、高梨に副委員長になってくれるように頼んだら出された条件の一つだ。
「だけど、強制はしないよ。嫌なら断ってもいいからな」
この前に頼んだ時は無理矢理にでも副委員長をしてもらうような感じを出してしまったが、高梨が嫌なら当然無理強いするつもりはない。
「ううん、大月が委員長をやるなら、私も副委員長に立候補するよ」
「おお、ナイス」
「それに私の分の仕事も大月がやってくれるんでしょ?」
「いや、むしろ俺の仕事もして欲しいんだけど」
「クズかよ。そこは俺に任せとけって普通は言うんじゃないかなぁ」
「上に立つ人は部下に仕事を割り振るのが仕事なのさ」
「その上司、絶対嫌われると思うけどね」
「俺の人心掌握術を舐めるなよ」
「例えばこうやってケーキを奢ったり?」
「そうそう、あとは漫画を買ったりだな……。あ、そういや、明日アメゾンで地底戦線の最新巻が届くわ」
「おー、ありがと。地底戦線の新刊って久しぶりだよね。楽しみー」
「半年ぶりかな。まあ、こうやって、お金の力で人の心を掌握していくのです」
「私はもうすでに人心掌握されてたんだ」
「洗脳はもう始まってるんだよね」
まあ、金では人の心は買えないと言うけども、金で人の気持ちが動くのは事実だ。
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