第4話 高校生の外食は大体ファミレスかラーメン


「お待たせしましたー! 牛肉煮込みのオムライスです」

「あ、ここにお願いします」


 三人でファミレスに来ていた。俺が頼んだのはオムライスだ。ランチメニューということで、ドリンクバーとスープが付いている。


「大月、先に食べていいよ」

「多分二人のもすぐ来るだろ。待つよ」


 しばらくして、二人の頼んだチゲ鍋うどんとチーズのかかったハンバーグが運ばれてくる。


「美味しそう」

「いい匂いがします……!」

「食べようか」


 頂きますと言って、食べ始める。


「うまい」


 このオムライスは洋食屋に出すオムライスにも劣らないレベルに感じる。


 高梨がチゲ鍋うどんで、斉藤さんがハンバーグセットだ。

 高梨は熱いのか、息を吹きかけながら食べている。チゲ鍋うどんも美味しそうだな。


「めっちゃ物欲しそうな眼差しを感じるんだけど」

「気のせいではない」

「そこは気のせいって言うところだと思うけどなぁ。一口いる?」

「お、いいの? あざす」

「大月のオムライスも一口ちょうだい」

「どうぞどうぞ」


 高梨と食べてた料理を交換する。そして、一口食べようとした時だった。


「凄い……! 間接キスなのに躊躇することがないなんて……!」


 斉藤さんから間接キスの言葉が聞こえてきたのは。


「「間接キスって思ったら食べにくくなるじゃん!」」


 俺と高梨の手は完全に止まっていた。

 そうなのだ。俺たちは暗黙の了解のもと、間接キスという言葉を意識から排除することによって、当たり前のように自分の食べてた物を交換したのであった。しかし、間接キスを一度意識してしまったら、とてもじゃないが恥ずかしくて高梨の食べかけを食べることができない。


「ごめんなさい! ……もしかして、NGワードでしたか……?」

「そんな大層なものではないけど、一度意識したら食べにくくなる」


 斉藤さんに高梨が答える。


「俺は全然意識しないけどな」

「じゃあ、食べて?」


 高梨が俺をジト目で見る。

 俺はなるべく意識しないように、チゲ鍋うどんを食べた。しかし、この箸って高梨が口にしたやつだよな……。


「美味しいな……」

「私も普通に食べられるけど」


 高梨もムキになって、俺が使ったスプーンでオムライスを口に運ぶ。

 おいおい、一口のはずが三分の一くらいなくなってるよ。


「このオムライス、美味しいね」

「うん……」

「…………」


 俺と高梨は無言になった。


「……どうしたんですか。二人とも顔が赤いですけど……!」


 斉藤さん、察して!?







「このいちごパフェ、とても美味しいです……!」

「このソフトクリームも濃厚で美味しい」

「俺のも普通に美味しい」


 食後のデザートが食べたいという高梨の言葉で、俺たちはファミレスで追加の注文をした。

 斉藤さんがいちごパフェ、高梨が北海道の濃厚ソフトクリーム、そして俺がチョコレートケーキだ。チョコレートケーキは美味しいんだけど、回転寿司の一皿百円のチョコレートケーキの方が圧倒的にコスパがいいんだよな。大体同じクオリティで、こちらは三百三十円する。


「咲良。そういえば、今日は部活なかったの?」

「うん。今日はないよ」

「斉藤さんは何の部活をしてるんだ?」

「卓球部です……!」

「卓球か。斉藤さんはどんな掛け声出すの?」

「卓球で掛け声出す?」

「ほら、有名な卓球選手がサーとかチョレイとか言うじゃん」

「あ、確かに」

「えとえと……特に決めてないです。あまり試合中に声を出したりもしません……」

「え、試合中に気分が盛り上がって思わず口に出しちゃう言葉とかないの?」

「ないと思います……」

「大月ならどんな声出す?」

「俺だったら……ヒナノッチィ!って言うかな」

「きもっ」

「お前が振ったんだろ」

「私の名前をネタにしないで」

「ごめんなさい、ひなのっち」

「……咲良」

「え、私!?」


 高梨は斉藤さんの名前を呼んだ。


「咲良が大月の前で、私のことを変な名前で呼ぶから弄られるようになった」

「でもでも……ひなのっちはひなのっちだよ?」

「咲良のネーミングセンスはどうなってるのかなぁ……」

「まあまあ、落ち着け高梨。斉藤さんに当たってもしょうがないだろ」

「もう、怒ったから。覚えておいてね」


 あ、怒った。こういう、いつ仕返しをするのか分からないのが一番怖い。


「食べ終わったら行くか」

「私、お手洗い行ってくる」

「私も行きます……!」

「おっけー」


 二人は一緒にトイレに行った。

 この時間に会計を済ましておこう。俺は伝票を持って立ち上がる。レジで三人分の支払いをした。


「お待たせ」

「よし、出よう。忘れ物しないでね」

「あのあの……伝票は……?」

「あ、もう俺が払ったよ」

「大月ありがとう」

「どういたしまして」

「えっと……ありがとうございます……でも……」


 斉藤さんは申し訳ないという表情をしている。今日初めて会った人に奢られるのは気持ち悪いのかもしれない。


「まあ、俺は金だけは持ってるし、全然気にしなくていいよ。そうだ。じゃあ一つお願いがあるんだけど」

「…………」

「明日のホームルームで、俺に投票して欲しいな。クラス委員長になりたいからさ」

「……はい、分かりました。でも、それだけでいいんですか……?」

「あまり大月にそういうこと言うと、メイド服のコスプレを要求されるよ」

「コスプレ……!?」

「そんな要求しねえよ!」


 満腹になった俺たちは店を出た。

 


「咲良はこの後の予定は?」

「家ですることがあるから帰るね」

「分かった」

「じゃあ、駅はあっちなので行くね……! 大月君も、さようなら……!」

「ばいばーい」

「また学校でな」


 斉藤さんと別れて、俺と高梨にだけになる。


「今日も家来るか?」

「行っていい?」

「いつでも」


 高梨も俺の家に来ることになった。まあ、いつものことだけど。




「何で数日の間にこんなに散らかるの?」


 高梨は俺の家を見て言った。

 彼女は毎日のように俺の家に来ていたが、ここ数日は来ていなかった。


「正体は空のペットボトルと脱いだ服だ。だから見た感じは汚いが、思ったよりは綺麗だよ」

「その見た感じが大事なの」

「だったら、ちょっと待て」


 机の引き出しからゴミ袋を取り出し、急いで散乱しているペットボトルを集める。それが終わったら、下に落ちている衣類を回収して、クローゼットの中に投げ入れた。

 ここまでで一分。

 

「どうだ? 一分で綺麗になったぞ」

「掃除機」

「はい」


 掃除機のコンセプトを差して電源を入れ、部屋の端から端までをざっと掃除していく。

 頑張れダイ●ン。お前だけが頼りだ。


「これでいいか?」

「うん。あとは私がやる」

「悪いが頼む」

「おやつを用意してね」

「任せろ」


 高梨が俺の家に来るようになってから、部屋の掃除を時々してくれるようになった。高梨のおかげで家の清潔が保ってると言っても過言ではない。

 俺は、さっきファミレスでデザートを食べなかったっけと思いながらも、おやつの用意をした。二人分の紅茶を用意する。


「俺はまだ腹減ってないんだけど」

「私も減ってないかなぁ」

「おい、ケーキを用意してしまったじゃん」


 ケーキを冷蔵庫に戻した。高梨は掃除機は既に片付けて、洗面所をスポンジで掃除してくれていた。


「紅茶、入れたよ」

「ありがとー」


 俺は自分の机の上に紅茶を置き、パソコンに電源を入れた。

 午後の一時半だった。何か眠くなってきたな。


 


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