第4話
河野くんは、まだ意識不明の重体で亡くなってはいないし、塩をかけてみても何もなかったことから幽霊ではない。
ほな、それ幽体離脱やがな。自分の体に戻るなんて幽霊にはできひんから。
ただ、私の家から一歩も出られないだけだ。
ほな、それ地縛霊ちゃうか~。地縛霊はたいてい未練があってその場に留まってしまうからねぇ。
ただ、河野くんはきっと私に召喚されたんですよ。
ほな、ほな…なんやろなぁ?
と、陽菜の脳内では未完成の漫才が繰り広げられていた。あの後スマホでオカルト記事を調べてみたが、なかなか河野くんと同じ条件の話は見つからなかった。
うーーんと眉間にシワが寄る。原因が分からないというのもあるが、怖い話が大の苦手な陽菜にとって、こんなにオカルトのことを調べると後日広告が幽霊だらけになるのじゃないかと心配してるからだ。
そんな陽菜の様子に河野くんはそわそわしているが、自分では調べられないのでもっと調べてほしい気持ちともういいよと言わないとという気持ちが反発しあって何も言えないようだ。そんな河野くんに、早く答えを見つけてあげたいと陽菜のスマホをいじるスピードもあがっていく。
数十分後、ひとりかくれんぼの動画が目に止まった。いわゆる降霊術の話だ。
この方法で河野くんが人形になることで、外に出られないだろうか。そう思い顔をあげると、河野くんと目が合う。
やってみよう、とベッド周りに並べていた夢の国と謳われているテーマパークのクマのぬいぐるみを手に取る。その時ふとベランダが見えた。どこか違和感を覚えたが、具体的に何がおかしいか分からなかったので気のせいだと思うことにして、河野くんの前にぬいぐるみを持っていく。
「これ、春休みに行った時のだよね。こないだのことなのにすごい懐かしいなぁ」と河野くんの言葉を聞いて、同じこと考えるなんて運命じゃない?とニヤけたいのを我慢して、そうだね~と無難な返事をした。
その後、念じてみたり、ぬいぐるみの前で踊ってみたり、お願いしてみたりしたけど何も起こらなかった。
「…やっぱり、無理か」と河野くんの声がむなしく部屋に響く。
落ち込む姿を見たくなくて、おーい、ぬいぐるみ気合入れてくれ~と揺さぶってみた。空気が和み、河野くんに笑顔が戻る。そして、ノリがいい河野くんは無意識にお願いします!と、そのぬいぐるみの頭を撫でた。
その時だ。透明に透けてるかのようにみえる河野くんの手が実態をもったのは。確かに河野くんはぬいぐるみを触ることができた。しかし、その事実に驚いた私がついぬいぐるみから手を離すとまた透明に戻ってしまった。
「…もしかして、俺、中村に触れることでモノと繋がれるかもしれない」
体温が上がっていくのを感じる。それに、さっきまでうるさかった蝉の声が聞こえないほど心臓の音がうるさい。
「わかった、河野くん。…きて?」
透明なはずなのに、河野くんの喉が音を立てて息を飲んだようにみえる。
クーラーをつけていたのに首もとの汗がうなじにたらりと垂れた。
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