第3話 素直になれない私たちは ~消えた初恋~
「えっ二人って付き合ってないの?」私たちの会話が聞こえていたようで
近くにいた子たちが興味津々な目で近づき、
色んなところからクラスの子が見つめてくる
急に周りがざわめき始め、いろんな声が聞こえてくる中
この状況の圧迫感に耐えきれず、いつの間にか口を開いていた
「つっ!付き合ってないよ!葵の事、異性としてみたことないし
ただの友達だよ」
その瞬間、静まり返る教室
思った以上に私の声が教室中に響き渡り、他の生徒もこちらを振り返る
だけど、そんな視線は私の目に入らなかった
言ってしまった言葉に対し、深く後悔していた
今の私は周りの目を気にすることにまで気が回らなかった
ずっと、自分の中で何回も呪文のように繰り返し言い聞かせていた言葉
だけど、その言葉を声に出した途端、思った以上に重く、心臓の内を強く締め付けた
「なーんだ」「ほんとに~?」とざわめきを取り戻すように飛び交う言葉
「蝶舞、葵君がいるよ」
人生の中でタイミングは本当に大切でタイミングによって、人生は決まると思う
この今のタイミングは人生で一番、最悪だった
後ろを向くと葵がドアのところに立っていた
今一番顔を合わせたくない相手
周りの子たちと目が合わないように席を立って、ドアのところへ行く
葵の目の前に立ち、少し視線をずらして、どうしたの?と聞く
いつから立っていたの? 心の中でこの言葉がループしている
「数学の教科書忘れてさ。貸して!」
「あっいいよ、待ってて」
教科書を渡すと「ありがとう、すぐ返す」と言って、私に背を向ける
「葵っ」気づくとその背中を呼び止めていた
「ん?」といつもと変わらない顔
「…返すの忘れないでよ!」
「わかってるよ」
焦りと緊張、不安が入り混じっていた感情の中、不安だけを残していくから
私はその位置から動けないでいた
雨だ
家に帰ろうと思うとなぜか、寂しく感じる
「そういえば葵、傘持ってなかったな」
私は帰宅部で葵はバレー部だった
だから、帰りは時間が合わなくて一緒に帰れない
待ちたくても、部活が終わる時間まで長く、その間何もすることがないから待つことがなかった
傘を見つめながら、今日はこのまま帰りたくないと思った
「蝶舞、帰らないの? 今日、一緒にカフェに行く予定だったよね」
陽菜に背中を押される
「あ、そうだった」
「忘れるなんて、悲しいよ~」
「忘れてないよ、行こ!」
傘をさし、陽菜の後ろについていく
大丈夫、不安になりすぎ
明日になれば、話せる
大丈夫…
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