第2話 素直になれない私たちは ~消えた初恋~
「早く!遅いって!バス来たよ!」
とっくにバス停に着いているはずなのにこんなにハラハラするのはどうしてだろう
プシュー
この音を聞くともっと焦ってしまう
扉が開くと並んでいた学生が次々に乗り出す
長い行列ができていたはずなのに後列にいた人がもう踏み台に足をかけていた
「セーフ!!!今日も間に合った~」
息を切らしながら、でも満面の笑みでこちらを見てくる奴
バスに乗り遅れそうだった本人なのに、焦るどころか余裕ぶっている
いっそ乗り遅れてしまえばいいのに!と言いそうになったのを飲み込む
「セーフじゃないよっ、早く乗るよ!」
バスの中は学生で溢れていて、私たちはいつものように入口にある手すりを掴む
「座りたかったのに~」
聞こえるようにわざと大きな声で呟く
「今日こそは乗れないかと思ってハラハラしたよ」
走ったときに乱れた髪を直しているのか手すりにわずかに映る自分を一生懸命見ている
「聞いてるの?葵!」
「聞いてるよ。俺がバスに乗れなかった日は今まであったか?」
「…ないけど」
「だろ!それに座ってばかりいると寿命が縮むらしいから、立つのも悪くない」
立っている辛さの中、笑顔で言われたことが余計に腹が立った
「何偉そうに言ってんのよ」
「痛っ」勢いよく蹴り落した足は相手のすねへ見事に的中
「入学してから、いつもギリギリにバス乗るし、そろそろ余裕持つようにしなよ」
「たく、そんなに座りたかったら、次からは俺の事待たないで、先に座りなよ。
蝶舞だったら余裕で座れるだろ」
すねをさすりながら、痛そうにこちらを見るから罪悪感を抱く
「なによ、いつも待ってあげてるのに」
「本当にいつもありがとうございます。でも先に座ってていいからな」
「…分かった。
次からは先に座って、バスの中から○○が一生懸命に走ってる姿眺めてよっと」
からかいたくて、走っている姿を真似る
「そんな走り方してねーし!」
「こうだよ!自分で一度見てみなよ!」
本当は遅いのを待ってるだけじゃない、早く座ってしまったら
こうやって隣にいて、話すことができなくなるじゃん
こんな風に何気ない会話や中身のない会話が私にとって、一番楽しい時間だったの
隣で笑うこいつは清水葵
私と葵は幼馴染で中学の時から一緒に登校している
「蝶舞、おはよ!」
二人で廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた声がした
「おはよう~陽菜」
振り返ると1年の時から同じクラスの友達
「じゃあな、授業寝るなよ」
「そっちこそ、いびきかいて笑われないようにね」
とお互いにからかいあって、笑う
2年生になって、葵とはクラスが離れた
クラスが違うだけなのに離れてしまうことが少し寂しかった
教室に入ろうとした時、「わっ」クラスの男子に当たりそうになる
「ご、ごめんね」「いや、大丈夫」お互いにドアの端によって、すれ違う
「びっくりした~」
「蝶舞って不思議」
「どこが?」
「さっきまで葵君と普通に登校していたのに
クラスの男子と会話する時はすごくオドオドしているから」
「だって、男子と話すの緊張しちゃうんだもん」
「ん?男子と?…葵君も男子だよね?」
「あっ確かに、男子だ」
「忘れてたんかい!」
「でも、葵は昔から付き合いがあるから、クラスの男子とは違うよ」
「ふ~ん、じゃあさ、もし蝶舞が異性と付き合うなら? 選択問題。
昔から付き合いの長い葵君か、クラスの男子か」
「えっ付き合うって…」
「あっ!!今、どっちのこと考えていた?」
前のめりになって聞いてくるから自然と体が後ろにそる
「別に考えてないよ!」
何も隠していることはないのに勝手に焦ってしまう
「じゃあさ、クラスの男子のことは置いといて
正直に答えて。葵君の事、異性として考えたことある?」
今までにないくらい真剣な眼差しで見つめられるから、
さっきのように返すことは難しいようだ
本当のことを言うと、異性として考えたことないはウソになる
好きという感情は思ったよりも早く感じていて
だからこそ、長い間隠してきた
今まで一緒に過ごした楽しかった時間が変わってしまうことが怖くて、
隣を向くと必ずいてくれる存在が離れてしまうのが怖くて、
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