やっと、恋に落ちたよ

@Makuro321

第1話 素直になれない私たちは

地上波や配信サイトで流れる恋愛ドラマ

ドラマを見ると恋をしたくなる

手を繋ぐとどのくらい暖かいのか、後ろからのハグはどんな気持ちになるのか、

さまざまなシチュエーションに期待を膨らませてしまう

だけど実際はどうだろう

周りの友達から聞く恋人との話は必ずハッピーエンドへ続く話ばかりではない

大体は面倒ないざこざばかり

だから恋愛に期待を抱くほど無駄なものはない


「はい!登録完了!」

目の前に差し出された私のスマホ

「えっ!なんでこのアプリが入っているの?!

 てか、プロフィールもあるし、なんで」

「彼氏ほしいって言ってたじゃん!」

「そんなこと言ってないよ!…消すっ」

「ダメだって!せっかく入れたんだから」

自分の手元にあったはずのスマホがいつの間にか向秋の手元に

「ちょっとっ貸してよっ」

ピロン

二人の手の中で間抜けな音を鳴らすスマホ

「あっ早速いいね来ましたね~」

「いいね?今の音が?」

「ほら、アプリ開いて見てみな」

言われるがまま、さっき入れたばかりのアプリを開くとハートが一つ、通知に来ていた

「どれどれ~えっ結構雰囲気よさそうじゃん、いいね返しちゃいなよ」

「そんなすぐに…」

と嫌な顔を浮かべている内心、自分でも雰囲気いいなって思ってたり

いいねをしてくれたのに無視するのはよくないよな、なんて自分自身に言い訳して

相手にいいねを押す

画面にはマッチングしました!の文字が浮かび上がって、さっそく会話しましょうと案内されている

「最初は嫌がってたのに結構うれしそうだね」と横でニヤニヤしている向秋

緊張と恥ずかしさから横にいること忘れていた

そんな顔を見なかったことにし、もう一度画面を見ると通知が二つ

通知をタップすると「いいねしてくれてありがとうございます、仲良くしてください…」とメッセージが表示される

「なんて返すの~?」

「ちょっと、見ないでよ、

えっと…こちらこそ、いいねしていただき、ありがとうございます…」

「こんなかしこまっちゃって、初々しいね。始めたころの自分を思い出すよ」

いつからやっているんだよっと突っ込みを入れたくなったのを飲み込む

嫌々していた自分はどこへ行ったのか、いつの間にかこの出会い系アプリに期待を膨らましている自分がいた


「「わはははは!やめてよ」」

後ろから聞こえる大きな笑い声に後ろを振り返る

振り返った先には高校生の男女二人が椅子に座って仲良く話していた

「あの二人絶対カップルじゃん」

ぼそっと私の耳元でつぶやく向秋

「えっそう?」

「男女であんなに仲良くしてて、付き合ってない方がおかしいよ」

「そうかな~」

1年前まで高校生だった私たちはいつの間にか高校生を話題に話している

時の流れは速い

「あっバス来たよ」

プシューと音を立てながら開く扉

大学行きのバスは私たちみたいに様々な色の服を着た人で溢れかえる


「早めに来といてよかったね~」

「ほんとに、座れるのが一番幸せだよ」

私たちは入ってバスの後ろ側にある二人席に座った

窓の外を見ると、さっきの高校生二人が目に映る

ピロン

聞き覚えのある間抜けな音

ポケットからスマホを取り出すと、新着メッセージが来ていた

一瞬、通知を開こうとした指を止め、もう一度、窓の外にいる高校生を眺める

高校生という証の制服を着ているからか、青春をしていない悔しさからか、

目に映る二人が眩しくて…二人から目をそらした

放置していたスマホの画面も閉じ、ポケットに入れる

「期待するな、ばか…」

「ん?なんか言った」という向秋になんもないと言って、反対側の窓から見える青空に目をやった

プシューと音を立てて、閉じる扉

あの時はこんな風に椅子に座れたこと何回あったかな…

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