第16章 残り15秒
最後のタイムアウトを取り、A中学は円陣を組んでいた。
ナツミ達チアガールの声援が、館内に響いている。
残り15秒、点差はわずか1点であった。
真剣な表情でふり絞るように、天野が声を出している。
「いいか、最後は俺がシュートを打つと見せかけて、パスしろ・・・。俺が引きつけてから残り5秒でタカシに回す。タカシはまだ1年でノーマークだからな・・・・。これは賭けだ。でもこの試合、俺に預けてくれ・・・・。」
他の4人は固唾を呑んで、キャプテンを見つめている。
タカシの心臓は爆発しそうになっていた。
やがて審判の笛が鳴ると、A中学の選手達は『ファイトー!』と大きな声を出してコートに散っていった。
相手中学の選手が、一人一人にピッタリとマークする。
笛が鳴りボールがスローインされた。
天野がダッシュしてつかむと、それを予想していたのか、二人がかりで囲んでディフェンスしている。
天野は2、3度ステップを踏んで充分ディフェンスを引きつけたあと、ノーマークで走り込んでくるタカシにジャンプして、パスをした。
きれいにパスが通り、タカシは小犬のようにコートを駆けていった。
『行けー、タカシー。』
ナツミが声を張り上げている。
「ヘルプー。」
取り残されたディフェンスが叫んでいる。
数人の手がタカシを囲む。
タカシは小刻みなステップでそれをかわすと、ゴール下をドリブルで駆けぬけていった。
(夢と・・・同じだ。)
しかし、タカシがシュートしようとジャンプした瞬間、予期せぬ長い手が視界を遮った。
「ええっ、何で・・・?」
もう、身体は止まらなかった。
やはり夢だったのかと諦めかけた時、タカシの耳に天野の声が届いた。
『タカシー、パスだっ!』
かろうじて目の端にキャプテンを見つけると、夢中でタカシは後ろにパスを出した。
てっきりシュートすると予想していた相手ディフェンスは、意表をつかれたのかパスを許してしまった。
ふわりとゴール前に上がったボールを天野はジャンプして空中でつかむと、そのままの姿勢でゴールに優しくシュートした。
2、3度ゴールの輪を回ったあとゆっくりとボールはネットに吸い込まれていった。
その時、終了のブザーが鳴った。
審判は大きく手を挙げて叫んだ。
『カウーント。』
A中学のベンチから、弾けるように赤いユニフォーム達が飛び出していった。
抱き合うタカシと天野を中心に、輪が幾重にも出来ている。
A中学の県大会優勝が決まった。
ナツミはタカシ達と一緒に東京の全国大会へ行ける事を思って、大喜びで叫んでいた。
紙吹雪が、舞っている。
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