第15章 ビクトリー

県民ホールの座席は人々で埋まっていた。

 

それぞれの学校の家族や関係者達であったが、タカシと天野はまるで自分が出場するかのように緊張して待っていた。


今日はタカシの学校のチアガール部の県予選の日であった。


まだそれ程中学校では多くない部活動なので、いきなり県大会になる。


それでも各校とも中学生らしく、工夫をこらした自由な発想で演技を終えていた。


いよいよ、ナツミ達の登場であった。


ざわめく館内。


「さあー、次はA中学校でタイトルは・・・ビクトリー。」


という、アナウンスがあって幕が上がると、水を打ったようにシーンとなった。


舞台の上は異様な雰囲気を出していた。


人の姿が見えないのだ。


いや、よく目をこらして見ると、大きめの白い布を頭からかぶった十数人の集団が、ゆらゆらと波打つように動いている。



高い音で笛の音が、館内に響いてきた。


すると白い波の間から、二人の赤い古代の衣装をまとった少女が中央に登場した。


そして、ゆっくりと笛の音に合わせて、不思議なエキゾチックな踊りを舞い始めた。


場内は一瞬ざわめいていたが、やがてこの不思議な光景に吸い込まれるようにして静かになった。


二人の少女は、ナツミとキャプテンの沙良であった。


特にナツミの動きは、独特の雰囲気をもってリードしていった。


背景にゆらめく白い波が、二人を妖しく浮かび上がらせている。


やがて笛の音がやむと、静寂が支配した。


そしてドーンという太鼓の音が響いたかとおもうと、アップテンポのダンスミュージックが館内にこだましていった。


それと同時に白い波が次々とはがれていき、中から鮮やかなチアガールの衣装をまとった少女達が現れた。


最後に、ナツミと沙良が赤い古代の衣装を脱ぎ高々と投げ上げると、床に置いてあったボンボンを取り上げて、リズムに合わせ力強く踊り出した。


静と動のダイナミックな変化を目のあたりにした観衆、は誰からともなくリズムに合わせ手拍子を送った。


少女達は回転したり、宙に舞ったり、様々なパフォーマンスをみせて人々を魅了していった。


そして曲がクライマックスになると、少女達は整然と並んで順番に元気のいい可愛い声を出して叫んでいった。


『V・I・C・T・O・R・Y』


次々とポーズを変えて、列が変化していく。 


そして全員が一瞬身をしずめたかとおもうと、同時に叫んでジャンプした。


『ウーッ・・・ワーオ!』


曲が終わると同時に、大きく両手、両足を開いて全員がVの字のポーズをとり、演技は終了した。


一瞬、静まりかえった場内は、割れんばかりの拍手で埋まっていった。


タカシと天野も、手が千切れんばかりに拍手している。

 

静まりかえった館内の暗い舞台の上で、スポットライトを浴びた司会者がマイクから大きな声をあげた。


※※※※※※※※※※※※※


『優勝はA中学・・・ビクトリー、です。』 


ナツミ達は飛び上がって喜んでいる。


場内も当然とばかりに、あたたかい拍手を送っている。


ナツミ達は全国大会に出場が決まった。


タカシと天野は、今度は自分達の番だとばかりに元気よく立ち上がった。


タカシはうれしさで涙ぐむナツミを見つめ、微笑んでいる。

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