第6章 目覚め
鳥のさえずる声がする。
高い声や低い声、中にはけものの鳴き声も混じっている。
こんなに、たくさんの声を聞いたのは初めてであった。
背中と足に痛みを感じて、ナツミは目を覚ました。
薄暗い室内は木の香りが漂っている。
明かりの漏れる開口部は、板のような物が棒で支えられている。
家全体は別荘などに見られるログハウスのように丸太で作られていた。
小鳥が2、3羽窓の所にとまってさえずっている。
目が慣れてくると、家の中にはムシロのような寝具と槍や弓矢が隅の方に置かれていた。
扉の開く音がして、眩しい光がナツミの視力を奪った。
ゆっくりまぶたを開けると、タカシが朝の光を浴びて立っていた。
「お早よう・・・タカシ。私・・・どうしちゃったんだろう・・・。あっ、そうか昨日トラックに轢かれそうになって・・・そのまま気を失ったんだ。」
タカシはゆっくり近づいてくる、とナツミの足になにやら草のようなものを貼っている。
「痛いっ。」
ナツミが声を出すと、心配そうにのぞき込んで言った。
「大丈夫か・・・ナツメ・・・?」
そう言いながら薬草を取り替えると、手際良く布で巻いていく。
「タカシ・・・そのかっこう・・・。それに、この家・・・ここは、どこ・・・?」
少年は長髪を後ろで束ね、長靴のようなものを履き、教科書で見た埴輪が着ていたようなものを、はおっていた。
そして不思議そうにナツミを見ると、おでこに手を当てて言った。
「熱は・・・ないみたいだな。どこって、ここは俺達の家じゃないか。」
「俺達って・・・?」
ナツミは驚いてもう一度室内を見渡し、自分の服装に気がついた。
麻の長いスカートに、ゴワゴワした上着を着ている。
そして、急に顔を赤くした。
(きゃっ・・・私、この下、何も着ていない。パンティもブラジャーも・・・。)
男はフッと微笑むと、ナツミをムシロの上に寝かせた。
「まだ、昨日のしびれが残っているんだろう。すごい雷だったからな・・・。」
男はゆっくりと説明してくれた。
昨日、二人は結婚式を挙げて神様のホコラにおまえりに行った帰り道、急に大きな雷が二人の側の大木に落ちたのだった。
そのショックで倒れ、そのまま一晩寝込んだという。
その時、山の斜面を転がり落ちて足を捻挫したらしい。
ナツミは男から聞かされた言葉に、顔を真っ赤にして言った。
「結婚って・・タカシ、何で私がアンタと。それに何よ、そのかっこう。ああ、何が何だか、わからないわ・・・。」
男はナツミの髪を優しく撫でてやりながら、囁くように言った。
「疲れてるんだよ、ナツメ・・・。それに私の名前は『タカシホ』だ。変に縮めたりしないでおくれ。今食事を持ってくるから、もう少し眠っておいで・・・。」
そう言うと、扉を閉めて出ていった。
再び薄暗くなった部屋の中で、ナツミはあまりの混乱で又、気が遠くなってしまった。
そのまま又、眠りに落ちていった。
※※※※※※※※※※※※※※※
風に舞ったレースのカーテンが、少女の顔をくすぐった。
眩しい朝の光に、顔をくもらせるようにして目を覚ました。
背中がふわふわして、空を飛んでいるみたいに感じる。
何か花のような、いい匂いがする。
起き上がろうとしたら足がズキッと痛んだ。
「痛いっ。」
小さく叫んだ声にドアが開いて、タカシが入ってきた。
「お早よう。まだ・・・痛いか?」
そう言うと、少し照れたようにナツミのベッドのふとんの足の方をまくり上げ、貼ってあるシップを取り替えている。
「タカ、シホ・・・。ここは、どこ?」
タカシは昨日ナツミをおんぶした時の寝言を思い出して、恥ずかしそうに言った。
「どこって、家じゃないか。何言ってるんだ、お前の部屋だろ、ここは・・・。」
(私の・・・部屋?)
何か胸と腰のあたりが窮屈であった。
自分の着ているものも、柔らかくって肌ざわりが気持ちいい。
そして鮮やかな色がついている。
まるで花びらを着ているみたいだと思った。
「そっか、昨日のショックがまだ残ってるんだ。なんせ夕ご飯も食べずに寝ちゃったもんな。でも、良かったよ。大した怪我じゃなくて・・・。」
タカシはゆっくりと昨日の出来事の説明をした。
少女は怯えるような目でタカシを見つめている。
その時、タカシの母が部屋に入ってきた。
「あら、ナッちゃん目が覚めたのね。だいぶ顔色もいいみたい。これなら大丈夫そうね。私はちょっと用事があるから、タカシあとで病院に連れていってあげなさい。学校には連絡しといたから・・・。」
そう言うと母は下へ降りていった。
「じゃあ、食事持ってきてあげるから、少し横になってなよ・・・。」
タカシも薬箱を持って出ていった。
誰もいなくなった部屋で、少女は頭を混乱させていた。
(私・・・いったい、どうしたの・・・。ここは・・・。タカシホ、髪が短くなって変な着物着ていた・・・よく、わからない。)
少女もあまりのことで、まぶたが重くなっていった。
やがて長いまつ毛を伏せて、眠りにおちていった。
風が舞ってレースのカーテンを又、少女の顔に送った。
少し、うすぐもりの朝の事であった。
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