第4章 体育館
「ハイッ、そこはゆっくりと力をためて・・・。違う違う、ナッちゃん、もっとゆっくりだってば・・・。」
チアガール部キャプテンの沙良有加利が、手を叩きながらみんなに指導している。
今度の発表会の新作を練習しているのである。
「いい・・・?今度の振り付けは古代王朝をイメージしているのよ。だから最初はゆっくりとしたリズムで、そーね、神社の巫女さんのような感じで、ほらこうやって・・・。」
ナツミは沙良が踊るのを、うっとりと見つめている。
(沙良先輩、やっぱりステキだなあ・・・タカシじゃないけど、おしとやかで美人で、私の憧れ。私もあんな風に踊れたらなあ・・・。)
体育館のステージで、チアガール部が練習している。
出だしの音楽は一風変わっていて、笛と太鼓だけのシンプルな演奏で、確かに神社の音楽に似ている。
「こら、タカシ。よそ見してるんじゃないぞ。」
チアガールの練習に見とれてボールをファンブルしたタカシに、キャプテンの天野が大きな声を出した。
中学生にしては背が高く、175センチ以上あった。
落ち着いた物腰とハンサムな顔立ちで、学校中のアイドルであった。
タカシの事を弟のように可愛がってくれて、いつかタカシもキャプテンのようになりたいと思うのであった。
「そんな事じゃ、夏の大会に出れないぞ。」
普通、一年生だと試合どころか、練習も隅でドリブルなどの基礎練習しかさせてもらえないのだが、タカシは運動神経の良さから上級生と一緒に練習させてもらっていた。
怒られているタカシをステージから見ていたナツミは、やきもきしていた。
(何やってんのよ、もう・・・。あんなに朝私にいばっておいて・・・。でも確かにアイツ・・・大きくなったわ。前は私よりずっと背が低かったのに。でも先輩達の中に入ると小さく見えるわぁ・・・。しょうがないけど・・・。)
「またー、ナッちゃん違うってばー。」
沙良の声で我に返ったナツミは、人の事を気にかけている場合ではないと思った。
キャプテンは腰に手をあてると、ため息をついて言った。
「そーね、ナッちゃんはアップテンポのダンスは得意なんだけど、こういうのは口でいくら言ってもわかりにくいわね・・・。じゃあ又、ビデオをつけながら、みんなも一緒に見ましょう。」
そう言うと、ステージのそでに置いてあるテレビにセットした。
今まで、みんなで何度も見たビデオである。
神社の巫女や日本舞踊のシーンが納めてあり、食い入るように見つめながらナツミは心の中で呟いた。
(私も、がんばらなくっちゃ。今度の発表会、絶対レギュラーになるんだから・・・。)
バスケットコートでも先輩達に怒られながらも懸命にタカシがボールを追っている。
体育館の中では他にバレー部、バトミントン部、卓球部等がそれぞれの夏の大会を目指して声を上げて練習している。
特に三年生にとっては負ければ即、引退なので気合いが入っている。
夏の日差しが2階の窓を通して、風に揺れたカーテンの隙間を縫ってフロアに落ちてくる。
生徒達の汗が、そこにふりかかっている。
白いシューズがキュッキュッと音をたてて、それを踏み潰していく。
夏は始まったばかり・・・。
そして、すぐ過ぎ去っていく。
タカシとナツミの青春は今、真っ盛りである。
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