第3話愛宕柚
「椎菜ちゃん!」
そう泣き腫らした顔で私の前に現れたのは、親友の愛宕柚。
「どうしたの?柚!」
私がそう言うと柚は、
「また保健室警察に捕まったよ」
と泣きながら答えた。
柚は勉強や部活以外で、家庭でも悩みを抱えていた。特に、柚の伯母・飛鳥井千夏の事である。飛鳥井千夏は、柚が他所で優しくされた話をかなり嫌っており、自分のネガティブな考えを柚に吹き込んでいる。
柚が、よく飛鳥井千夏の事で言っていた発言が
「保健室に頼らないで自分の力で乗り越えて欲しい」
という事だ。
その飛鳥井千夏は、保健室警察に所属している。
「柚、今度は何されたの?」
「反省文を音読しながらそれを書いていた」
「相変わらずやりすぎだね」
「もう嫌だぁ!」
私達が通う猿渡学園は、中高一貫校で中学生だろうが高校生だろうが同じ罰を受ける。
因みに、この時の私と柚は中学2年生だった。
そして、保健室警察自体は、ちょうどこの時に発足されたのだ。
「ねぇ、柚!伯母さんが保健室警察だって事、他の親戚は知ってるの?」
柚は首を横に振りながら
「ううん」
「そうか…知ってたら何か出来たのにな〜」
私は残念だった。
翌日、私は昼休みに養護教諭の加山先生と雪村先生に保健室警察の事や昨日の柚の話をすると
「柚ちゃんのためにも早くなくなってほしい。けど、身内がいるというのはかなり難しい状況になってると思う」
そう加山先生は言った。
「私もそう思うわ」
そう雪村先生が言ったその時、視線の先に何かいる事に気づき鋭い口調で
「保健室警察よ!椎菜ちゃん早く!」
そう言われ、出ようとしたが、時すでに遅し。保健室警察の男子生徒と飛鳥井千夏は私に近づいてきた。
「どうして保健室に行った?」
男子生徒がそう聞くと
「それは…」
私は額に汗をかいていた。どうすればいいかと思案していたが、ある嘘を思いついた。
「椎菜ちゃん、どうして保健室に行ったの?ちゃんと説明して!」
飛鳥井千夏はそう聞いて般若面のような顔をして私に詰め寄ってきた。
「それは、私今日熱っぽいんで熱測りに保健室に行ったんですぅ〜。もう平気なので、私帰りま〜す」
私はそう言って加山先生と雪村先生にお礼を言って去った。
男子生徒と飛鳥井千夏が口をぽかんと開け呆然としていた。
私はその姿を今でも忘れなかった。
「椎菜ちゃん、それ本当?」
放課後、昼休みにあった出来事を柚に話すとびっくりして聞いていた。
「うん。なんとかなったよ」
「凄いね。椎菜ちゃん!私も何かあったら勇気を出さなきゃ!」
「その意気だ!柚!」
しかし、私達はこの時まで甘く見ていた。
保健室警察を…。
私は知らなかった。
彼らの行動がどんどんエスカレートしてきている事を…。
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