〈2巻発売記念〉スライムたちの野望
僕たちは悩んでいた。
僕たちには個性がない。思考力には違いがあるが、見た目で区別がつかないのだ。
どうすれば、僕たちを区別して認識してもらえるだろう。
『案のあるスラは手ぇ挙げて~』
『てぇどこ~』
『てぇてぇ』
『ここかな~。にょい~ん』
一体のスラが体の横部分を伸ばす。そこが手で正解だと思う。
みんなで真似して伸ばしてみる。にょい~ん、と。
『お~、伸びた~』
『のびた~、のびた~』
『ここかな、いっけぇ』
一体のスラが四方八方に体を伸ばした。それはもう手じゃないと思う。海にいるウニってやつみたい。この間、マスターが捕まえて、割れなくて断念してたヤツ。残ったものは僕たちが美味しく食べたよ。
「うわっ、キモッ」
マスターが来た。きもって何だろう。あ、肝か。でも、僕たちには肝は無いよ。マスターは無知だなぁ。
「俺、すげぇ馬鹿にされてる気配がするんだけど。なんで?」
マスターがこっち見てる。これが手だよ~って、手を振ってあげた。何故か手を振り返された。マスターの手がどれかは僕知ってるよ? マスターってやっぱり馬鹿だなぁ。
「貶されてる気がする……?」
首を傾げつつ去っていくマスター。あ、僕たちの区別の付け方聞けば良かった。
『これがてぇ~』
『それはてじゃないとおもう』
『触覚? 手はもういいよ。僕たちの区別のしてもらい方、考えてよ~』
『これは~?』
一体のスラが花を持ってきた。騒がしい妖精たちが占拠している花畑から採ってきたらしい。
『それをどうするの?』
『色ちがい~』
ポイッと地面に投げられたのは六色の花。ちょうど僕たちは六体だから、それぞれ違う色の花を持っていたら区別するのにいいかもしれない。
『じゃあぼくこれ~』
あ、赤色とられた。次々とられていって、残ったのは緑色。なんか花というより草みたい。ちょっとしょんぼりする。
『……じゃあみんなこの花つけてね~』
それぞれ思い思いの場所に花をくっつける。吸収せずに保持するのが意外と難しい。
『ぼくはスラレッド~』
『スラブル~、スラブル~』
『ぼっくんはスライエロ~』
『僕はスラグリーン』
『スラは~スラピンク~』
『スラホワイト~』
これなら分かりやすいかも。それぞれの名前にしちゃおう。
自己紹介の仕方についてみんなで話し合った後、アル様に披露しに行くことにした。
***
「あれ、お洒落してるの?」
『スライムに花が咲いている……?』
アル様に見せに行ったら、凄く不思議そうな顔をされた。怖い狐は呆れた感じで近づいてきて、花をパンチしてくる。萎れちゃうからやめてほしい。けど、言えない。
『識別してもらうためにつけたの~』
狐から遠ざかりつつアル様に告げたら、納得したように頷いた。そればかりか、良いアイディアだと褒めてくれた。嬉しくなってみんなで体を震わせる。
『ぼくはスラレッド~!』
赤い花をつけたスラが両手を広げてくるりと回った。アル様は目を見開いて拍手してくれた。
『スラブル~』
青い花をつけたスラがベターと溶けたように広がった後元に戻った。アル様は手を止めて凝視してきた。
『ぼっくんはスライエロ~!』
黄色い花をつけたスラが元気いっぱいに前後に揺れる。あっ、花が飛んでいった。アル様がキャッチしてくれて無事再装着。
『僕はスラグリーン!』
僕は花が落ちないように気をつけて、体をぐるりとひねって戻る。両手を広げてダイナミックに動くのがポイントだよ。アル様の拍手は……もらえなかった。でも、興味津々で見てくれてるから問題ない。
『スラは~スラピンク~!』
ピンクの花をたくさん持っていたスラが、花びらを振り撒きながら手を振る。アル様は床に散った花びらの方が気になるみたい。片付けは僕らが吸収するだけだから、簡単だよ?
『スラホワイト~!』
白い花をつけたスラが、シャキーンッと手を伸ばし大きく半円を描くように動かす。手の先に花を持っているのが綺麗でいいね。アル様はこれで最後と思ったのか、笑顔で拍手をくれた。
だけど、まだ続きがあるんだよ。
『六体合わせて~』
僕の掛け声とともにみんなで声を合わせる。
『僕たち、スラカラ~!』
三体のスラの上に二体、一体と乗る。マスター曰くピラミッドっていうポーズらしい。カッコいいポーズを聞いたら教えてくれたんだ。
それぞれ手を伸ばして固まっているんだけど、かっこよく決まったかな。
「……スラカラって呼べばいいんだね」
『スラカラ……、なんだか踊りだしそうな名前だな』
すぐに受け入れてくれたアル様と対照的に、狐は渋い顔。気に入らないなら案を出せ、と言いたいけど、狐は怖いから言えない。
それよりも気になるのは、アル様の傍でお腹を抱えているマスターの様子だ。腹痛だろうか、小さく震えている。トイレ、行く?
「……っ、……ブハッ、ダメだ、我慢できない!」
心配してやったというのに、マスターは大声で笑いだした。何が面白かったのだろう。僕らは真剣にやっているのに。
「なんでっ、戦隊風? ……ふははっ、むしろ、尽くした結果すぐ死んじゃうキャラクターだろ!」
何を言っているのか分からない。けど、馬鹿にされているのはよく分かる。
スラたちみんなで以心伝心。頷いて、マスター目掛けて跳びついた。
「うわっ、何!?」
じわりじわりと能力発揮。マスターを溶かすことはできないけど、身に纏っている物なら僕らの能力が通用する。
「え、やめっ、ちょっ……! 俺を露出狂にするなあー!」
「……僕はご飯の準備してくるね」
『肉を食いたい』
アル様と狐が虚無顔で目を逸らして離れていった。その背中に向けて思念を放つ。
『僕は串焼き食べたい~』
『くしやき~、くしやき~』
『マスターの食べ物は草でいいよ~』
『おいしいくさもってくるからね~』
『ぼくらはくしやき~、マスターはくさ~』
『マスターはくさ~、くそ~。……くそ~?』
マスターは草じゃなくてクソ? なるほど、これは徹底的に消化すべき。
「ふぎゃっ、ねえっ、ちょっとピリピリする! ピリピリするよ!? ヤバイ! これ絶対肌溶けてるって!」
『マスター、うるさい~』
『うるさ~、うるさ~』
『ふさいじゃえ~』
顔に覆い被さったスラのおかげでうるさくなくなった。でも、本当に死んじゃうかもしれない。
『……まあ、マスターだから、大丈夫だよね』
串焼きを焼くいい香りがしてきた。ワクワク。
「スラカラ、串焼きできたからおいでよ」
『は~い!』
アル様の声を聞いて、みんなで一斉に離れる。狐がくわえてきた布がマスターに投げられた。アル様に変なもの見せるな、ってことらしい。布にくるまったマスターがしくしくと震えている。
ちょっと悪いことしたかもしれない。
『マスター、美味しい草採ってくるね』
「草はやだー!」
マスターはわがままだ。
僕たちはスライム改めスラカラ。たくさんのスライムが合体することで進化した特別なスライムだよ。
それぞれが持っている花の色で識別してね。
もっともっとアル様の役に立てるように頑張るよ。美味しいご飯くれるからね。
『あ、僕たちのお花がのってる~』
六体それぞれに用意されたお皿にお花が飾られている。それが凄く嬉しかった。
元々は個々の名前もなければ意思も薄弱だったちっぽけな存在。僕たちの進化はまだまだ続くよ。いずれはドラゴンになりたいな。
そうしたら、……怖い狐を食べるんだ! きっともっと進化できるよ!
でも、狐がいなくなったらアル様が寂しくなっちゃうかな。代わりに僕らが傍にいれば大丈夫かな? 要検討、だね!
僕たちをしっかり認識させて、狐に成り代わるんだ。そうしたら、毎日美味しいご飯を食べられるからね!
ーーーーーー
なお、スライムはどう頑張ってもドラゴンにはなれないし、ブランを食べられるほどにも進化できません。ペット枠を追求する方が毎日美味しいご飯を食べられる可能性が高まるはず。スライムたちもすぐにそれに気づくと思います。
思考力、話し方は日々向上中。
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