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(でも具体的にどうすればいいのかしらね)


 サーヴァン男爵に雇われたのは一か月。その間に、彼の赤面症をなおすことはできるのだろうか。


(サーヴァン男爵は食事を共にして話し相手をしてくれればいいって言うけど……、それで本当に治るの?)


 少なくとも、今日見た限りでは、ただ話をして食事をするだけで、彼の赤面症が治るとは思えなかった。そもそも赤面症の発症理由はなんだろうか。発症したのは五年前だというが、その時に何らかの原因があったと思われる。


 ティーゼはごろんとベッドに仰向けに寝転がる。


(明日は男爵様は仕事で城に行くと言うから……顔を合わせるのは朝食の時と夕食のときだけね)


 サーヴァン男爵には一日中好きにしていていいと言われているが、仕事をしに来ているのに何もせずにぼんやりすごすわけにはいかない。


「……本屋にでも行ってみようかしら」


 無意識につぶやいた自分に、少し驚いた。


 ノーティック公爵家に嫁いで五年。他人と会うのが苦しくて外出を避けてきた自分が、外に出ようと考える日が来るとは思わなかった。借金を返済して離婚すると言う目標を立てたからだろうか、気分が前向きになっているのかもしれない。


 サーヴァン男爵家からなら、ノーティック家の大仰な護衛もついて来ないし、目立つ馬車に乗る必要もない。案外、誰にも注目されることなく外出できるかもしれない。そう思うと、ちょっとうきうきしてきた。


「だって仕事だもの。仕事のために調べものするだけよ。雇われているんだから、きっちり仕事しないと」


 自分に言い聞かせるようにつぶやく。


 サーヴァン男爵からは入用なものは好きに買っていいと言われていた。仕事で使う本を一、二冊買ったところで咎められないだろう。


 赤面症の治療にいい方法が見つかるだろうか。限られた一か月の間に、何としても彼の赤面症を治して、十倍の給金を手に入れたい。


 イアンが肩代わりしてくれたティーゼの実家であるアリスト伯爵家の借金は巨額だという。ティーゼが十倍の給金を手に入れたところで、返し終わるまでの道のりは長い。しかし、サーヴァン男爵から仕事に対する高い評価をもらえれば、次の仕事につながるかもしれない。そうして地道にお金をためていくのだ。


 幸いにしてアリスト伯爵家の財政は今は落ち着いているようだから、父に頼めば少しくらいは金を工面してくれるかもしれない。


「よし、がんばろう!」


 千里の道も一歩から。


 ティーゼは天井に向かってこぶしを突き上げた。

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