第36話 作戦会議



「おいおいおいおい……なんなんだここ!? 真っ暗でお前たちのことしか見えないぞ!? ん? なんでお前たちだけ見えてほかは何も見えないんだ? というより、ここって俺たち以外になんかあるのか??」


 俺のスキルの中に入ったロットは、キョロキョロとあたりを見渡して驚きが隠せていなかった。


「ロット……取り乱すのもわかるんだけど、とりあえず動かないでくれ。ここは俺のスキルの中。だから、動かれると余計に体力を使って休憩なんてできないんだよ」


「あっ……そういうことか。すまん」


 ロットは俺の言葉を聞いて、申し訳無さそうにしてその場に座った。それを見た他の人たちも俺に気を使ってなのか、その場に座った。

 そして俺もなにか周りにつられて座ることにした。自然と丸い円を描くように座っている。


「で、作戦ってのはなんなんだ?? 俺様は、スライムのことを倒すために作戦なんかいらないと思うけどな!!」


 対面に座っているザイラは、勢いよく拳と拳をぶつかり合わせてやる気が満ち溢れている。うん、作戦なしで挑むなんてさすがに無謀だと思うけど。


「そうだな……まずはじめに、スライムについてわかっていることをおさらいしようと思う」


 俺らみんなの顔を伺いながら口を開いた。


「まず、あいつには打撃と魔法が効かない」


「えぇそうよ」


 ライラは俺の言葉に、ザイラが飛びついて跳ね返されたときを思い出しているのか屈辱を味わっているような怖い顔になっている。


 女の人って、怖い顔しないと思ってたんだけど……。キャシーが俺に向かってこんな顔をすると思うと鳥肌が立つ。考えるのをやめよう。


「そして、体から出す粘液は物体を溶かすことができる」


「それだと、なんでロンベルトはあいつに捕まったのに体を溶かされてないんだ?」


 ロットは不思議そうに俺に聞いてきた。

 たしかになんで溶けなかったんだろう。そんなこと、俺に聞かれてもスライムじゃないしわからない。ただ、溶かされなかったとしか……。


「これは仮説で、ただの私の憶測なんだけど聞いてくれるかしら?」


 ライラは申し訳なさそうに、俺たちの会話に入ってきた。


「なんだ?」

 

「ロンベルトくんが捕まっているとき、捕まえている部分だけ硬くなっていなかった?」


「あぁなってたな」


 なってたな。まぁ、スライムが俺のことを捕まえようとしていたのなら、それぐらいなんとも思わないんだけど……。まさか、そこに仮説のヒントがあるのか!?


「やっぱり……。だから、体が溶けなかったのよ!」


 ライラは目を見開いて、指を指しながらいっきた。

 うん。そんなこと言われても、なにがなんだかわからないんだけど……。

 まさか俺だけわからないのか? と、他の人の顔を伺うと俺と同じく理解に苦しんでいた。


「えっと……まったく話についていけてないんだけど」


「あっ」


 ライラは俺の言葉にようやくみんなが全然理解していないことに気づいたのか、指を下におろした。そして、顎に手を当てて何かを考えている。

 少しの間、沈黙が流れたが再びライラが口を開いた。


「わかりやすく言うと……。スライムは体の一部を硬くする代償として、一時的に粘液で溶かすということを失ったっていうことよ。つまり、スライムは自分の体を自由自在に操れるってこと」


「それはヤバいな……」


 ロットは口を開けたまま愕然としていた。


「えぇ……もし、この仮説が正しければかなりヤバいわ」


 ライラはわざとロットの言った言葉を真似てヤバいなどと言っているけど、これは真面目にヤバい気がする。

 だって、あんな溶ける粘液を吐き散らすやつが体を自由自在に操れるんだぞ? 体を大きくしたり、小さくしたり、分裂させたり。もし全部できたらもうそれは、太刀打ちできる気がしない……。さすが、世界で一番物体の魔物で強いと言われている。


 そんな魔物を何体も倒した、俺が憧れているは一体どうやったんだ……? 


「だから、私たちより先にスライムのことを倒そうとして挑んでいった人たちの攻撃を学んで、打撃も魔法も効かない体になったんじゃないかしら?」


「それっぽいな……」


 ロットがいつになく真剣な顔立ちでそう呟いた。

 俺も同感だ。


「あくまで私の仮説だから、あんまり素に受けないでもらいたいんだけど」


 ライラは、勝手にそう信じ切っている俺たちのことをみて慌てていった。

 そうだ。これは、仮説だ。だがかなりありえる話なので、これも一つの考えとしたほうが良さそうだ。


 俺はそう感心していると、嫌そうな顔をしたザイラが目の前にまで移動してきた。

 もしかしてザイラは、動かれると体力使うことになるってことを聞いていなかったのか?


「なぁロンベルト。俺様は、こんな女の妄想を聞きたいんじゃねぇ。もともとクソスライムお前たち二人で倒す予定だったんだろ? とっとと、その時の作戦わ話してゴミを倒しに行こうぜ」


 俺はその言葉で本来の目的を思い出した。

 そう、これは作戦会議。仮説を話し合うのもいいけど、スライムをどうやって倒すのか考えるのが目的だ。


「最初の予定だと、なんとかしてティラがスライムのことを弱らせて、その隙に俺がスキルでスライムのことを吸収するっていうのなんだけど……」


「そんなの、作戦って言わないだろ」


 ザイラは俺のことを哀れむような目で見てきた。


 うん。ここにくるまで、何も考えずにただ本能のままに魔物をなぎ倒していたやつに言われると説得力がまったくない。

 だけど、たしかにザイラが言っている通り今俺が言ったことがではないのはよくわかってる。だから、作戦会議を開いたんだけどな……。


「まぁそうなんだけど、他に何も思いつかないからさ……」


「ロンベルトのスキルって、あのスライムのことを吸収することなんてできるのか?」

  

 俺は、ただただどうすればいいのかと悩んでいるとロットが話に割り込んで聞いてきた。不快には思わない。だってこういうのが作戦会議っぽいじゃん。


「まぁ、っていうよりかは今みたいにって言ったほうが正解かな」


「なるほど……つまり、弱らせたスライムをロンベルトくんのスキルの中つまりここに隔離させるっていうことよね?」


 俺たちの会話を少し離れた場所で聞いていたライラが前に出て、話をまとめて言ってきた。


「そういうことだ」


 スライムのことを倒すわけではない。スライムを俺の中に隔離してまた別の方法で倒すことを試みる。今の実力では倒せないことはよく理解している。

 

「まぁ、ロンベルトの言っていることは理解できるんだけどそもそもスライムのことを弱らせることなんてできるのか? 俺たちじゃ全然歯も立たなかったのに」


「歯が立たなかったっていうのは少し違う。あのとき俺は、ティラの魔法で助けられたんだから」

  

 俺は、スキルの中に入ってから一度も言葉を発していないティラのことを指さす。するのティラは話に出てくるとは思っていなかったのか、「ひょ!?」と奇声を発してその場に飛び上がった。しかも正座をしたまま。

 かわいい。

 俺の中で、より撫でたい気持ちが高まった。


「……でも、魔法は効かないんじゃなかったのか?」


 ロットはそんな俺のことなんて知らずに、再び問いかけてきた。


「だけど実際、あのイカズチをくらったスライムは俺のことを手放して逃げただろ?」


「うぅ〜ん……。たしかにティラのイカズチで穴を作ったにしても、スライムが手放したのはおかしいな……」


 そう、おかしい。もし俺がスライムだったら、一度掴んだ獲物を離すはずがない。というよりかは、離す理由がない。


 そうなったらなぜ離したのか?

 俺のことを離す理由として、ティラのイカズチ以外になにかあっただろうか? いや、ない。


「だろ? だから、ティラのイカズチは効いたから弱らせる方法はあるんだよ」


「それが本当なら、さっきロンベルトくんが言っていたこともできなくはないわね……」


 そう。できなくはない。だけど、スライムのことを弱らするなどそれ相応の労力が必要になる。


「っと……」


 一瞬、体の力が抜けて体重がかかってしまった。

 危ない危ない……。っていうよりかは、そろそろ体力の限界かもしれない。

 作戦会議中だっていうのに最悪だ……。


「どうした?」


 心配そうに問いかけてきた。


「ごめん……さすがにもう体力の限界かもしれない。今から作戦会議が始まるけど少し寝ていいか?」


「寝たら、スキルの中から追い出されるとかそういうのはないよな?」


 ロットは手をわしゃわしゃと動かして、眠たそうにしている俺のことを寝させないように聞いてきた。


「ないない……これは俺のスキルそのものだから、死なない限りこの空間は存在し続けると思う……」


 思うっていうのは 俺の予想じゃなくて本に書いてあったから。なんかその本には、まだ少し確実性が疑われるためとかなんとか書いてあったきがする。


「じゃあ、作戦を練るのは私たちに任せて、少しでも体力を戻してね。あっ、作戦会議が終わったら起こすわ」


 ライラは俺に優しく言って、体を横にするように促してきた。

 自分でスライムのことを倒すと豪語したのに、その本人は作戦会議となったら寝て休むと考えると、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 だけど……。

 

「……じゃあ、頼む」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る