第34話 追いかける
リロとサリィとボロダインが荷物をまとめて、行ったあと。その場に残ったのは三人。正直、俺だけ二人のことを全然知らないけどまぁいいや。今はそれより、一刻も早くロンベルトとティラのことを助けに行かないと……。
そう思った俺だが、ある疑問にぶつかった。
「なぁ、張り切るのもいいんだけどこんな深い穴どうやって降りていくんだ?」
俺は穴を上からのぞき込んで、体を揺らしながらワクワクしているザイラに向かって問いかけた。
実は、ちょっと前まで真面目なやつなのかと思っていたが前言撤回。多分こいつは、ただただ目の前にある未知がたまらなく気になっているだけだ。
「そういうときの……ライラの出番だ!」
ザイラはライラのことを両手で指さした。指をさされた本人は、首を傾げて何を言われているかわからないようだ。
…………こいつら、大丈夫か?
こんな全くかみ合っていない二人と一緒に助けに行くなんて、先が思いやられる。
「あっ! 付与魔法で降りるってことね!」
ライラはぽんと手を叩きながら思い出したかのように言ってきた。
「そうだ……」
付与魔法……? もしかして、最初にスライムに飛びついていったときに言っていたものだろうか?
俺は魔法先行ではないので、付与魔法とか言ってもちんぷんかんだ。
「えっと、何がいいかしらね……。とりあえず考えられるのだと、耐久と吸収ぐらいかなぁ〜」
ライラはそう言って、なにやら空気中で手を動かしている。付与魔法ってこういう感じでつくるのか……。俺はそう素直に感心していると、
「あと何が必要だと思う?」
ライラが当たり前かのように意見を求めてきた。
「え? 俺……ですか?」
びっくりして敬語になってしまった。
「うん。ロットくんだね」
そんなこと言われても困るな……。
俺は別に、ティラみたいに魔法ができるわけでもないしロンベルトみたいにスキルがすごいわけでもない。
俺は正直運だけで、Aランクパーティーのリーダーにまで登りつめた部分もあると思う。
「えぇ〜と……その、付与魔法をかけるってことは穴の中に足から飛び降りるってことでいいんですよね?」
「「…………」」
俺が聞いているっていうのに、二人は黙り込んで俺のことを見てきた。
あ、あれ?? 俺なんか言っちゃいけないこととか言っちゃったのかな……?
そう疑問に思っていると、
「そら、そうだろ」
ザイラが「は? 何いってんだお前?」と言いたげな顔をしながら言ってきた。
「そうだなぁ〜……」
ザイラが小バカにしてきたが、無視して真剣に考える。耐久っていうのは多分、着地するときに足が砕けないようにするためのだよな。で、吸収ってのは地面についたときの力を魔法で吸収して何もなかったかのようにするためのだよな……。
う〜む……。俺、魔法なんて知らないしそれだけでいいと思うんだけどなぁ〜。二人は俺の言葉を待っている状況だし、とりあえずなにか言わないといけないよな……。
「痛み耐性、とかどうです?」
「……それだわ」
どうやら、俺が適当に言った言葉が正解だったようだ。そして、その言葉を聞いたライラは再び空気中で知らない動きを始めた。
「えぇ〜と……。こうしてああして、それからこうして……」
今度は、体全体を使って何かを動かしている。
本当にこんなことをして付与魔法が完成するのか……?
「できた!」
ライラの両手には、紫色で螺旋を描いている謎の物体が。まさかこれを足に付与するとでもいうのか……? こんなの付与したら足ごと吹き飛びそうで怖い。
「えっと……付与の関係で、片足しかできなかったけど許して?」
「……え?」
今、この女何つった? 片足しかできなかった??
もしそれが本当だったらどうやって、地面が見えない落とし穴の中に着地するっていうんだ?
「おう。大丈夫だ」
ザイラは俺の反応とは真逆で、何食わぬ顔でライラの言ったことを了承した。
その反応を見たライラは「うん」と俺のことなんて見ずに、嬉しそうに紫色の螺旋を描いている謎の物体が足の中に入れてきた。
この女、以外とヤバいやつだったんだな。
「よし……もうふたりとも付与できたから、いつでも飛んでもらっていいわよ」
これで付与ができたのか??
とくに「体から力がみなぎる!!」などと言う現象はなく、いつもどおり何も変わっていない。どこが変わっているのかわからないが、確実に外部から力がこめられているのはわかる。
俺は人生初めての付与魔法に興奮していると、
「あっ、だけどもし右足で着地できなかったらそのときは色々覚悟しておいてね?」
ライラはそう言い残して後ろに下がっていった。
せっかく興奮して、気持ちが高ぶっていたのに現実を教えられテンションが下った。
やっぱりこの女は、色々とヤバいやつだ。
俺はそう思いながら、これから降りる穴に体を寄せる。
「ふぉ〜……」
先は真っ黒。壁おろか、地面なんて微塵も見えない。一度ちらっと見ただけだったので、こんなにも暗くて怖いなんて知らなかった。
正直、行きたくない。
だけど……。
「いかねぇのか?」
穴を見て考えていると、不思議そうにザイラが話しかけてきた。
「……ん? 行くさ、行くさ。行くんだけどさここって覗いてみると以外とヤバそうなんだなって……」
ヤバいっていう言葉だけでは表現しきれない。いや、もともとヤバいっていう言葉は表現不足だけども。
でもロンベルトとティラは、そんなヤバい場所に落ちていってしまった。俺が自ら足を踏み入れるよりか、何倍も怖かったんだと思う。
「お前、ビビってるな」
俺は、穴を見てつばを飲み込むとザイラは的を得たことを言ってきた。
「は、はぁ!? ビビってねぇし!!」
慌てて反論する。
ここで、ビビってるなんて知られたら俺のAランクパーティーのリーダーとしての冒険者の威厳というものがなくなってしまう。ただでさえ、ザイラにはなめられてる気がする。
こんなところまで、なめられてたまるか!!
俺はそう思って、逆に「ザイラの方がビビってんじゃないの??」とイジろうとしたとき。
「そうか。なら、先に行ってこい」
「へ?」
背中をぽんと押され、体が前に出る。
いや、前に出たんじゃなくて暗い穴の中に落とされた。
「ぎゃやややややややや!!!!」
なんで? なんで? あの野郎、何してくれてんだよ!! ヤバい。今、頭から落ちていってる。このままだと死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
なんとかして先に、右足を地面につかないと!!
俺はそう思ったのだが……。
「ど、ど、ど、どっちだよ!?」
急に穴の中に落とされたので、方向感覚がわからなくなった。わかりやすくいうと、どっちが地面なのかわからなくなった。
「もぉ〜!!!!」
俺はヤケクソになって、どっちか地面なのかなんてわからないけどとりあえず右足をピンと伸ばして着地に備えた。
そして……。
「――ぎゃふん!?」
右足がなにかの中に埋もれた。
周りは真っ暗で見えない。ここはどこなんだ?
まさか……。
「死んだ……のか?」
「いや、死んでねぇ。それより、ギリギリの着地……。見直したぞ」
俺がつぶやくと隣に、電灯を持ったザイラがなんの音も建てないで降りてきた。
「なんだよそれ……」
ギリギリってどういうことだ……?
まぁ、文字通りギリギリだったと思うんだけどなんでそれで見直すんだよ。獣人ってそんなことで人のことを見直すのか……? っていうか、勝手に背中を押して落としたのになんの悪びれもないのかよ。
俺はそんなことを思っていると、反対側にライラが降りてきた。
「ふぅ〜……よかった。一か八かで上手く行って」
「それ本当か?」
たしかに、なんの実験もしていなかった気がする。
いや、まさか俺を先に行かせてそれで様子を見てたり……。そんなこと考えるのやめよう。
「おい、ロット……。過ぎたことをグチグチ言ってても、時間の無駄だぞ? それより早く、ロンベルトたちのことを見つけ……」
ザイラは俺の先を歩きながらそんなことを言っていると、足が止まり喋っている言葉も止まった。
「どうし……」
俺はそんなザイラが疑問に思い、隣まで歩いていったとき何故立ち止まり喋らなくなったのかわかった。
「なんだこの魔石の量……」
俺か降りてきたときは灯りがなくてわからなかったが、たしかにそこには魔石がある。それも床がびっしり埋まるほどに。
「そんなの俺様に聞かれてもしらねぇよ……。でもわかることは、ここでめちゃくちゃ魔物が死んだことだな」
ザイラは顎に手を当てながら喉を鳴らして言った。
うん。魔石があるということは、ここで大量に魔物が倒されたことにある。まぁ、こんなところまできて魔石をぶん投げるやつなんていないだろう。となると誰がこんな大量の魔物を倒したのかとなるのだが……。
「もしかして、これってロンベルトくんたちが倒した魔物の後じゃないかしら?」
「いや、最後に見たあいつにはこんな大量の魔物を倒す体力が残っていたように見えない……」
そう、ロンベルトはスライムに掴まって身動きができない状況にあった。あんなの、スキルを使えばすぐ脱出できたと思うんだけどしなかった。ということは体力がないと推測できる。いやその前、スライムから弾かれたときに体力がないって言っていたな。
「たしかに、ロンベルトくんだけだったらありえないわね」
ライラがだけという言葉を強調していってきた。
「ティラか……。でも、あいつって……」
あいつは、極度の人見知り。
なので初対面のロンベルトなんかに、魔法を使うとは思えないんだが……。いやロンベルトのことを助けようと、スライムに
それを踏まえるとありえる。あいつが、ロンベルトと一緒に魔物を倒してここを進んでいるという予想が正しいのかもしれない。
「おいロット! そんなところでずっと考えてると、おいてくぞ!!」
俺が立ち止まって考えていると、少し先に歩いていっていたザイラが声をかけてきた。隣にはライラがいる。
おいていくというよりかは、もうおいていかれてる気がするんだけどな……。
「今行く」
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