第29話 迷宮主との激闘−1
私はここで生まれた。
どこって? そこは真っ暗でなにもない虚空。私はそこでどれくらいだろう……? ずっと……長い時間、彷徨っていた気がする。先が見えず、体が動かせない状況だったのに何も考えず、ただ先に進んでいた。その先にはにもないとは知らずに……。
私がこうやって考えることができるように、自我が生まれたのは固い地面に降り立ったときだと記憶している。地面と言っても冷たく青く光った四角く、ゴツゴツとしたものなんだが。
そこから何度も何度も移動し、たどり着いたのはこの洞窟。ここで私は生まれた。なんでそうわかったのかはわからないのだが、直感で気づいた。
生まれた場所がわかってどうするのか?
何もしない。ただその洞窟の一番奥に行って……。
ある日人間が私の前に来た。
私は、人間という生物を知っている。なんで知っているかはわからない。見たら思い出したように脳内に情報が入ってきた。そして、自分が世界から忌み嫌われる魔物だということも。
その人間たちは剣先を私に向けてきた。
話し合って誤解を解決しようとしたのだがそれはうまくいかなかった。人間が私の体に剣を突き刺してきたのだ。
痛かった。体が引き裂かれるくらい痛かった。
私はそれで人間との対話を諦めた。
そいつらは私の子どもたちを一瞬にして、なぎ倒して魔石に変えていった。意味がわからない。今までここに来た人間の中でも段違いに強い。
私は追い出すつもりで巨大な魔物を生み出した。
私は何度も何度も、この場所に来た人間を殺してきた。もう、後戻りはできない。
ここに侵入してきた人間には、平等に死を。
「#?(=:/!!!!」
私は己の仁義を貫き、人間の前に姿を表した。
*
「#?(=:/!!!!」
ザイラたちがやってきた方から、聞いたことのない寄生を発しながら近づいてくる何かがいる。姿はまだ見えない。だけど、ヤバいのが近づいてきているということはわかる。
「全員、俺様の後ろにいろ」
ザイラは暗闇の奥にいるそいつのことを見据えて、歯ぎしりをしながら言ってきた。獣人だから、暗闇でも見えるのだろうか。俺はそんなことを思いながら、ザイラの背中に隠れた。そして、俺に続いてロットたちもきちんと一列になって後ろに隠れた。
誰も喋らない。
喋れるような空気ではない。
多分みんな、これからなにかが始まる。そんな予感がしてたまらないのだ。
「#########!!」
「オラァ!!」
どんな魔物がどんな攻撃をして、どうなったかは全くわからない。だが、さっき巨大な牛みたいな魔物をたやすく倒していたザイラがやけになって叫んでいる気がする。
一体どんな敵が目の前にいるのだというんだ……?
Sランクパーティーであるザイラが苦戦するほどということは、俺たちなんて歯も立たないのだろう。
「はぁはぁ……もう大丈夫だ」
数秒経ったら、ザイラのさけびがなくなり息を切らしながら後ろを向いて言ってきた。
そこにいたのは巨大な緑色の物体。丸っこい体から、粘液のようなものを垂らし続けている。
世界で3番目に強いとされているドラゴンよりも更に上である、世界で2番目に強いとされているスライムだ。なんでこんなところにいる? いや、ここはSSSランク迷宮。どんな魔物が出現してもそう、おかしくはない。
「――ッ! こいつ、
一歩前に出たライラが叫んだ。
両目の前に、紫色の魔法陣のようなものが空中に浮いている。魔法で、
だが、そんなこと俺には考える余裕がなかった。
俺の目は初めて見るスライムに釘付けになっていた。なぜなら、目の前に物体では世界最強だと言われているあのスライムがいるんだ。
「ライラッ! 早く付与魔法をよこせ!」
「今、あげるわよッ!」
ライラがそういうと、ザイラの手足が黒光りし始めた。これが付与魔法か。どんな魔法なんだろう? いや、今はそんなことどうでもいい。
もしかしてザイラはあのスライムと戦うつもりなのか? あんなの、さすがのSランクパーティーでも勝てないだろ……。体一つで倒すなんて無謀すぎる。
「おい、お前たちはここから早く逃げろ」
「そんなことできない」
「はぁ!? うだうだ言ってんじゃねぇ! 早く行けッ!!」
俺が拒否すると、ザイラは怒鳴ってきた。
だが俺はいくら怒鳴られても逃げはしない。こんな強敵を前にして、一緒に戦わないという選択肢はない。俺が目指す生きる伝説はどんな苦境でも戦い抜き勝つ強者だ。決して、一人を残して逃げることなんてない。
「ザイラ。俺もロンベルトと同じく、この場から逃げることはできない」
ロットも俺のとなりにたって真剣な顔をザイラに見せて、説得させようとした。
「なぜだ……俺様はお前らに死んでほしくない」
「ふっ……かのSランクパーティーのザイラ様に死んでほしくないなんて言われるとは……。俺もなかなか冒険者として登り詰めてきたな……」
ザイラはこんな状況なのに一人でニヤニヤしている。やっぱりこいつはバカだな。
「いや、お前らっていうのはお前以外のお前らだ。変な勘違いするな。俺様はお前だけ嫌いだ」
ザイラは容赦なく、冷たいトーンでいってきた。
「はは……それはひどいな……」
たしかにひどい。
てかそんなことより、二人の口調が前にもどこかで会っているようだ。
「まぁ、そんなことどうでもいい。いいかザイラ。これだけは忘れるんじゃねぇ」
ロットは再び真剣な顔でザイラのことを見る。
「早く言えよ。いつ、スライムが攻撃してくるわからねぇんだぞ」
「あのな……ここにいるやつらは、迷宮管理委員会から指名で依頼を受けてここにいる。それなのに、人に任せて逃げろ? そんなことできるわけないだろ。依頼を完遂しなければこの先、胸を張って冒険者として生きていけない」
ロットはザイラの目をまっすぐ見据えて言った。
その目はどこか決意を固めた目だった。
ほぉ〜……バカなのになかなかいいこと言うじゃん。
俺はそう素直に感心していると……。
「##########!!!!」
のんきに話し合っている俺たちの目を覚ますようにスライムが叫んできた。粘液が近くに落ちてくる。そして、落ちた場所は丸く溶けていった。
もし今のが、俺の体に当たっていたら……。
そう考えるだけで鳥肌が立つ。どうにかして、戦う策を考えないと……。俺は顎に手を当てて考えていたが、一人脳筋なやつがいた。
「スライム如きが俺様の前で立ちふさがるんじゃねぇよッ!!!!!!!」
脳筋はザイラ。
明らかに打撃が効くはずがないぷにょぷにょしているスライムの体めがけて、持ち前の鋭い爪で引っ掻いた!
「うわ!?」
だがその攻撃は、スライムに弾かれた!
ザイラは情けない声を出しながら、元いた場所に跳ね返ってきた。
「やっぱり打撃と、魔法は効かないみたいね……。誰かこの中であいつに対抗できるスキルを持ってる者はいないかしら?」
そんな中、ライラは今起きた現状を冷静に分析して打開策を考えている。さすがSランクパーティーだ。こんな状況なのに、恐れずスライムを倒すことしか考えていないとは……。
さっきカッコつけたロットが小さく見えてしまう。
「一応、戦闘向きのスキルを持ってるので試してみます」
「お願い!」
「少し離れててください。まきぞいに合うかもしれません」
まだ俺は自身のスキルについて知らないことが多い。もし間違えて加減を間違えたらここにいる人たちのことも殺してしまうかもしれない。そんなことになったらすべてが台無しだ。そんな自体は避けたい。
「わ、わかったわよ!」
他の人たちはライラの緊迫した返事を聞いてうしろにさがった。
「ふぅ〜……」
あとは俺次第。俺のスキルが効くか効かないかで、この戦いの勝敗が決まっても過言ではない。
俺は肩から力を抜いて、何も口答言えしないで後ろで見守ってくれている仲間のことを感謝しつつ全神経をスキルに研ぎ澄ます。
「
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