第28話 顔合わせ



「ん? なんか聞こえなかったか?」


「え……? 今?」


 俺はロットに問いかけみるが、顔に「?」を浮かべている。どうやら、聞こえなかったみたいだ。


 そうか……なら、なにかの幻聴だったのかな?

 俺は考えていても仕方ないのでそう思おうとしたとき。


「まてぇ〜!!」


 今度は迷宮の奥から女性の声のようなものが、たしかにはっきりと聞こえてきた。


「ほら」

「あぁ。聞こえたけど……」


 この迷宮から俺たち以外の人の声が聞こえてくるということはもしかして、Sランクパーティーなんだろうか。


 とうとうご対面か。


「――ドスドスドスドス」

「まってよぉ〜!!」



「なんか、地響きみたいのも聞こえてくるわね」

「なん、なんだ?」


 俺たちは耳を澄まして音を聞き取ろうとしていた。

 そんなとき、 


「――ドスドスドスドス!!」

 

 奥の方からなにやらドラゴン並みの大きなシルエットが見えてきて……。


「これは俺様の獲物だっつってんだろッ!!」


「はぁ!? そんなの誰がいつ決めたって言うのよ!!」


 勢いよく進んでくる魔物を、取り合っているような男と女の声が聞こえてきた。

 そして……。


「だから……はぁはぁ……ちょっとまってって言ってるじゃぁ〜ん!!」   


 その二人のことを止めようと、息を切らしながら叫んでいる女性の声も聞こえてくる。


 うん。たぶん、この人たちがSランクパーティーだって言うことは間違いないんだけど本当にロットがいった通り野蛮人みたいだな。


 このまま突っ込んでこられると、俺たちが魔物の下敷きになりだ。あの人たちは俺たちがいるのを気づいていないのだろうか?

 

「みんな。一歩下がったほうがいいと思うんだけど」


「そうだな……」

「そうね……」

「どっす……」

「そうします……」


 ロットたちはなんの反論もしないで俺がいった通り少し……というよりかはかなり後ろに下がって、何が来てもいいようにみんなでボロダインのことを盾にしていた。


 いくら体が頑丈だと言っても、魔物に踏み潰されたら終わりなんだと思うけども。


「――俺様の獲物だッ!!」


「「ドッスゥ〜!!」」


 男はそう言って、牛のような巨大な魔物をて倒した!!


 そう、引っ掻いて倒したのだ!


 よく見てみると、手先には鋭い爪。そして頭には、丸っこいもふもふしてそうなケモミミ。


 どこからどうみても獣人だ。っあ、だからミラはずっと一緒に行きたがってたのか。


「もぉ! なんであなたが全部殺すのよ! せっかく、久しぶりに外に出てるんだから私にも寄越しなさいよッ!!」


「はっ! なんで俺様が、獲物を渡さねぇといけねぇんだよ!! 獲物は先に仕留めたやつのものだ!!」


 男と女は、お互いに魔石ではなくもう魔石になってしまった魔物について言い争っている。


「あ、あ、あ、あの……私のこと忘れてませんよね?」


「あぁん?? 忘れて……」


 男が、息が切れている女に返事をしようとしたとき鋭い目が俺に止まった。

 そして声が止まり、静かになった。

 ずっと俺のことを睨みつけるように見ている。


 こ、こういうときどうすればいいんだろう?


「どうも?」


「誰だてめぇら?」

  

 さっき、大きな牛のような魔物を倒した獣人は俺のことを鋭い目つきで見ながら問いかけてきた。


 どう言ったほうがいいんだろう。

 この返答次第で、この人の機嫌を損ねたら俺の首が飛びそうだ。それほど威圧感のある顔、声だ。


「えっと、俺は迷宮管理委員会からここに依頼を受けてきたAランク冒険者、ロンベルトです」


 俺はきちんと姿勢をただして獣人に向かって頭を下げた。いろいろ挨拶の方法はあるが結局、こういうオーソドックスな挨拶のほうが受け入れやすいと思う。


 挨拶し終え、顔をあげると獣人の目は俺から興味が失せたのか隣りにいるロットたちにいっていた。


「俺は、Aランクパーティー賢者の集いのリーダーロットです。で、こっちは」


 ロットは何もためらいなく言った。

 そして他の三人もロットに続いて、


「ボロダインどす」

「サリィよ……」

「ティラです」


 俺と自己紹介したときと同じようなことをいった。

 こういうときのための挨拶が、決まっているのだろうか。とてもスムーズだ。

 

「あっ! もしかしてあなたたちって迷宮の前で突っ立ってた人たちよね?」


 獣人も胸ぐらをつかみ合っていた女はそう言って、ロットのもとに駆け寄った。

 なんかさっきと全然、雰囲気が違う気がする。


「はい……この、ロンベルトのことを待っていました」


 ロットはそう言って俺の方を指さしてきた。

 そしてなぜか、女の目を見ないで顔をそらしながら言った。


 まさかあれだけ、だの言っていたくせに近くに来たら意外と可愛かったから照れてるわけじゃないよな?


「ロンベルトくんと言うんですね。はじめまして。私たちは知っていると思いまずか、強者の灯火というSランクパーティーです。私はライラと言います。ちなみにこの獣人の男がザイラで、後ろで息を切らしているおチビちゃんはリロです。どうぞよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくおねがいします……」


 ロットが照れた女、ライラはそう言って丁寧に頭を下げてきたので俺もつられて頭を下げた。


 頭を上げるとたまたま同時だったのか、可愛いらしく大きな目が俺の目とあった。


「自己紹介なんてどうでもいいんだよッ!!」


 俺たちが目があって気まずくなっていると、獣人の男ザイラが声を荒らげて俺たちの間に入ってきた。


 まさか、知らない人と見つめ合っていたから嫉妬したわけじゃないよね……? いや、さすがにという言葉がお似合いのザイラはそんなにピュアじゃないか。


 ただただ、お行儀よく自己紹介していた俺たちのことが嫌になったのか。


「ヤバそうだな……」

 

 ロットとその仲間は何か嫌なことを察知したのか、数歩下った。


 何がやばいのか教えてくれないかな!?

 俺はロットにそういう目で訴えかけていると、ザイラの凶暴そうな顔が俺の視界を埋め尽くした。


「俺様はてめぇらが誰なのか聞いてんだよ。もしかして、俺様の獲物を奪い取るつもりじゃねぇよな?」


 ザイラはいつか、ギルドマスターがしたかのように人差し指で俺の体を突きながら聞いてきた。


 うん。多分手加減してくれてると思うんだけと下手したら獣人って、爪が尖ってるから大怪我しちゃうんだよね。爪が当たってなくても、ギルドマスターより数十倍痛い。


 この動作は俺がするのが憧れなのに……。

 俺がされているということは、一体するのはいつになることやら……。


「い、いやぁ〜……そんなSランクパーティー様から獲物なんて奪うわけないじゃないですか」


 俺は小物になることを意識して、ヘラヘラしながら答えた。するとザイラは急に、クンクンと鼻を鳴らしながら体を隅々まで嗅いできた。


 こ、この感じ前にもあるんだけど男の獣人に体を嗅がれるなんてなんか気持ち悪い。今のがミラだったら、逆にウェルカムの姿勢なんだけどな。


「お前、知り合いに獣人がいるな?」

 

 神妙な顔をしながら聞いてきた。


「はい……そうですけど……」


 なんでそんなこと、神妙な顔で聞いてくるんだ……?

 ん? これってまさか、同族嫌悪と言うやつなんじゃないか……。まだ、本でしか読んだことないけど、これは獣人などの人間以外で稀に見られるものらしい。

 さらにさらに、そういうのが過激となると相手のことを殺してしまうらしい。俺はそんなことを思い出して不安に思っているとザイラは、両手をあげ俺のことを殴ろうとしてきた! 


 くそ! こんなところで殺されるのは嫌だッ!

 俺はそう思って、スキルを使って逃げようとしたのだが……。


「ふふふ……ふははははッ!! そうか! 知り合いに獣人がいるのか!!」


 ザイラは嬉しそうに肩に手をおきながら笑ってきた。


「えっと……?」


 こ、これはどういうことなんだ?

 この人は、同族嫌悪をしているんじゃなかったのか?


「そんな固くなるなよ! お前は、俺様の同胞が知り合いにいるんなら俺様とも知り合いだ! はははッ!」


「あの……ロンベルトくん? あんまり真に受けなくていいのよ? この人はただ、知り合いに獣人がいるっていうことが嬉しいだけだから」


 ライラは困惑している俺にわかりやすく説明してくれた。


 な、なんだ……この人はただ嬉しかっただけだったんだ。いくら顔が悪人面だからって勝手に同族嫌悪をしているなんて思い込むのはいけないな。


「いやぁ〜取り乱して悪かったな。俺様はザイラ。見ての通り獣人だ」


 ザイラはそう言って、ミラのように耳をピコピコと動かしながら手を出してきた。


 この手は仲直り……というよりかは、これから仲良くなりたいから握手をしたいということなのだろうか。


「俺はロンベルトです。よろしくおねがいします」


「あぁよろし……」


「――ガガガ」


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