第5話:匂いにつられて



 「お姉ちゃん!」



 ルラの警告の声に私は片付けていた手を止める。

 この子が警告を発するなんて普通じゃない。



 「どうしたのよ、ルラ」


 「誰かいる」



 そう言ってもう薄暗くなってきた森の方を見る。


 エルフって遠くが見えたり夜目が効いたりと人間と違った能力がある。

 ルラが指さした方を見ると黒い森の奥に確かにこちらの様子をうかがっている何かがいる。

 

 私は目を凝らしそれをよく見ると人間のようだ。


 「ルラ、人がいるみたいね?」



 「誰!? あたしたちに何の用!?」



 ルラが大声でそう言うと森の奥から数人の人が出てきた。


 全部人族。

 そしてそのいでたちは正しく冒険者だった。



 「嬢ちゃんたちだけかい?」


 「うーん、グリフォンが飛んで来た方にエルフの嬢ちゃんたちだけ?」


 「うむ、他に誰かいないのか?」


 「それよりなんだよこのいい匂い!」



 冒険者の人たちは口々にそう言う。

 確かにいくらエルフとは言えこんな森の中私たち二人でいるのはおかしい。



 「えーと、あなたたちは?」


 「俺らか? 俺らは近くの町で最近この辺に出るコカトリスの討伐を依頼された冒険者だよ。『ザ・スキンヘッド』って言うんだがな」



 言われて私は彼らの頭を見る。

 うん、確かにスキンヘッドだ。



 「えっと、私はリル、そしてこっちは妹のルラ。双子の姉妹です」


 「へぇ、エルフも双子っているんだ。それで嬢ちゃんたちこんな所で何してるんだい?」



 「それはぁ……」



 言えない、ルラがお肉食べたくて狩りしてただ何て言えない。


 「ああ、お肉食べたくて狩りしてました」


 ルラは簡単にそう言ってしまう。



 この子!

 言えないって思ってたのに!!



 それを聞いてこの人たちは顔を見合わせて笑う。



 「エルフが弓の名手ってのは知ってるけど、山鳥でも捕まえていたのかい?」


 「そういや食事中みたいだけど、獲物は捕まえたのかい?」


 「ふむ、しかしこんな所にか弱き女性二人では少々危ないぞ?」


 「それより何作ったんだよ、いい匂いだなぁ」



 うーん、この人達スキンヘッドだけど意外とフレンドリー?

 どうやら私たちを心配してくれているみたい。

 私は苦笑いしながらこの人たちを招き入れる。



 「しかし、本当にこんな所で狩りとは。いくらエルフでも不用心すぎるんじゃないか?」


 「そうそう、君たちはまだだいぶ若いエルフのようだし変なのに襲われてしまうぞ?」


 「うむ、何なら町まで連れてゆくぞ?」


 「それより腹減ったぁ~」



 悪い人じゃないよね?

 


 「そうだ、お腹すいているなら残りでよければ食べます?」


 「良いのかい? エルフの手料理なんて初めてだな、俺はザム、こっちのつるっぱげはゾム、あっちの禿がボル、そいてこのタコがゴズだ」


 「ははは、皆さん本当にスキンヘッドなんですね……」

 

 「つるぴかぁ~」



 私が当たり障りないように言ってるのになに本心を言ってるのよルラ!



 「はっはっはっはっはっはっ、そうだつるピカだよ、覚えやすいだろう?」


 そう言ってザムさんはにっこりと笑う。

 まるで生前に見た事が有るボディービルダーのような笑顔で。


 「それより何喰ってたんだよ? すげぇいい匂いだったけどよ??」


 一番若そうなんだけどやっぱりタコ頭のゴズさんが聞いてくる。

 私はお鍋の中を確認して何とか四人分はあるなと思いそれをお皿に取り分けながら焼いた野菜も一緒に入れて手渡し始める。



 「えーと、鳥肉のヨーグルト煮焼きなんですけど、お口に合うかどうか」


 「ヨーグルトだって? そんな物が料理に使えるのか?」



 手渡しながらザムさんを見ると少々不審げな顔をしながら料理を見る。

 他のゾムさんもボルさんもゴズさんも同じだった。



 「大丈夫だよ、お姉ちゃんお料理はおいしんだから!」



 ルラはそう言ってニカリと笑う。

 それを聞いて「ザ・スキンヘッド」の皆さんは適当に座り渡した料理を食べ始める。



 ぱくっ!



 「「「「!?」」」」



 その瞬間皆驚きの顔になる。



 「これは!?」


 「おいおいおい、こりゃぁ『夕暮れ亭』の料理にも引けを取らないぞ!?」


 「うむ、これは見事な」


 「な、何だこれぇ! 今までに喰った事がないほどうまいぞ!!」 


 

 言いながら皆さんがつがつとそれを食べて行く。

 流石に男性で、冒険者。

 渡したお皿の中身なんて瞬殺で無くなってしまった。


 「くはぁーっ! 美味かった!! リルちゃんすげぇよ!!」


 「はははっ、お粗末様です」


 ゴズさんなんかお皿までなめている。


 「いや、本当に驚いた。こんなうまいもの初めて食べたよ。この鳥も何の鳥かは知らないがずいぶんと美味かったよ」



 「あ~それコカトリスだよ?」



 びきっ!



 ルラ!

 また余計な事を!!



 ザムさんはギギギと私の方を見る。



 「今コカトリスと聞こえたんだが……」


 「え、えっとぉ~、そう言う名前かもしれませんねぇ~」



 私はザムさんと視線を合わさないように顔を背ける。

 しかし皆さんの視線が痛い。



 「お姉ちゃん、コカトリスの死体引っ張り出してやれば? そうすればみんな信じるよ!」


 ルラは呑気にそんな事を言っている。


 「まさか、いや、エルフは見た目よりも年齢が高いからもしかして嬢ちゃんたちは大精霊魔法使いか?」


 「いやぁ~生まれてまだ十六年です…… 精霊魔法も最近覚えたばかりで……」



 びびきっ!!



 また皆さんが固まる。

 まるで石化したみたいに。 


 「ははは、何の冗談だかな、コカトリスって言ったら上級冒険者でもやばいって言うのに。しかも奴は石化の毒を持っていると言うのに」


 「あー信じていないなぁ? ならっ!」


 ルラはそう言いながらあたしの腰についているポーチに手を突っ込んできて中からコカトリスを引っ張り出す。



 どんっ!



 「頭は無いけど、ほら、コカトリスでしょ!」



 「なっ!?」


 「本当だ、この巨体と蛇の尻尾は間違いなくコカトリスだ!」


 「何と言う事だ!」


 「マジかよおい!?」



 ふふぅ~んと上機嫌なルラ。


 まったく、これをどう捕まえたか説明どうするのよ?

 私たちの秘密はなるべく知られたくない。



 「エ、エルフでこんな大それた事出来るなんてまるで『女神の伴侶シェル』のようだ……」



 ザムさんは呻くようにそう言う。



 「え? シェルさん知ってるんですか?」


 「ま、まさか君たちはあの『女神の伴侶シェル』の関係者か!?」


 「まあ、関係者と言うか何と言うか……」



 私がそう言うと途端に「ザ・スキンヘッド」の皆さん悲鳴をあげながら逃げ出してゆく。



 「お、俺は何もしてないぞぉ!!」


 「いやだぁ! 男なのに胸大きくさせられるのは嫌だぁ!!」


 「三十六計逃げるに如かず!!」


 「いやだぁッ!!」



 一目散に逃げて行く皆さんに思わず呆然とする私。

 それを見ていたルラはなぜか私の胸を見る。



 「そう言えばお姉ちゃんあたしより胸小さいよね?」


 「なっ!? ルラっ!!」



 人が気にしている事ぉっ!!



 「私だってまだまだ大きく成ります! それよりシェルさんの名前聞いて逃げ出すなんて。シャルさんのお姉さんってやっぱりとんでもない人だったんだぁ……」


 逃げ行くそちらを見ながら私は大きくため息をつくのだった。



 * * * * *



 「もしかしてこれってトロールってやつ?」


 「さあ? でも邪魔だからぶん殴っちゃった」



 街道で大きな化け物に襲われたけど、ルラが瞬殺した。

 噂では最近この辺に化け物がいるらしいけどこれかな?



 「でも最近この辺で出るって言う小さな悪魔ってのじゃないね?」


 「うん、なんか小さいのにもの凄く化け物じみていて色んな魔獣をやっつけまわってるって言うわね?」


 「それって二人組なんでしょ? 厄介だから会いたく無いねぇ~」


 「うんそうだねぇ~」




 私とルラはそんな事を話しながら故郷のエルフの村を目指すのだった。


 

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腹ペコエルフの美食道-リルとルラの秘密- さいとう みさき @saitoumisaki

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