腹ペコエルフの美食道-リルとルラの秘密-

第4話：料理はチャレンジの連続なの！

　ルラがお腹を空かせているので私は急いで料理を始める。

　コカトリスのお肉は鶏と同じような味だった。

　ただし、スルメではないかと思う程硬い。

　なのでヨーグルトと乾燥レーズンを使って柔らかくしようと言う目論見だった。

　「とは言え、ヨーグルトとレーズンだからシチューみたいにするしか無いわよね？」

　鍋にヨーグルトに漬け込んだコカトリスのお肉を入れて少しワインを追加する。

　パチパチと燃える焚火の上にそれを吊るして煮込み始める。

　「お姉ちゃん、もしかしてシチュー？」

　「うーん、ヨーグルトとレーズン入ってるからヨーグルト風味の鶏煮込みかな？」

　「それって美味しいの？」

　言われてちょっと気持ちが揺らぐ。

　ヨーグルトは同じ乳製品だからシチューっぽくなるだろうけど、シチューとはちょっと違う。

　「ま、まあ似たようなモノかな？」

　「……大丈夫？　お姉ちゃん料理上手だけどたまに失敗するからなぁ」

　ぐっ。

　た、確かにこっちの世界には化学調味料とか前世と同じ調味料とか無いよ？

　しかも食材も微妙に違うのもあるし。

　現に今だってお料理しているのは魔物だし、そりゃぁたまには失敗するよ？

　「あたしサツマイモみたいだからって焼いたら大根みたいだったあれってもう嫌だからね？」

　「あ、あれはこっちの世界でそんなものがあるなんて知らなかったからで……」

　こっちの世界で取れるサツマイモそっくりな植物、簡単に食べられそうだからって焼いたら中身が大根だった。

　あれは流石に食べられない。

　だって石焼にした大根ってぱさぱさになるし筋張っておいしくない。

　「だ、大丈夫よ。さっき焼いて味見したから多分うまくいくって」

　「多分ねぇ……」

　ルラはそう言いながら私のポーチに手を突っ込みドライフルーツの袋を取り出す。

　「じゃあ期待して待ってるからね、お姉ちゃん♪」

　「くっ！　わ、分かったわよ、ちゃんと頑張るから見てなさいよ！」

　ルラははいはい、とか言いながらドライフルーツを食べ始める。

　こいつ！

　お肉食べたいって言い出したのはルラの癖に!!

　いいでしょう、必ずおいしいって言わせてやる!!

　私はフライパンも取り出しさっき切った玉ねぎ、じゃがも、人参をオリーブオイルで炒め始める。

　岩塩とニンニクも少し入れて炒めると、とてもいい香りがし始める。

　ぴくっ!?

　ルラの長い耳がぴくっと動き始める。

　ふふっ、オリーブオイルにニンニクは鉄板！

　いい香りが食欲をそそる。

　「さてとこっちはどうかな？」

　鍋の蓋を開けるとくつくつと煮えている。

　野菜を炒めるへらで突いてみるとだいぶ柔らかくなってきているみたい！

　「よしよし、それじゃぁ～」

　私はポーチから乾燥したハーブをいくつか取り出す。

　それをちぎってパラパラと入れて岩塩、それと追加でワインももう少し入れて更に煮込む。

　本当は胡椒が欲しいけどこの辺には無いらしく有っても凄い高価だった。

　流石にこの先を考えるとちょっと手が出ないので代わりに松の実を入れる。

　そして更に煮込む事しばし。

　蓋を開けるとふわっといい香りがし始める。

　ぴくぴくっ！

　またルラの耳が揺れている。

　ふふふ、どうだこの香り。

　ハーブでヨーグルトとの酸味のある香りがまろやかで清々しい香りになって来ただろう？

　私はへらでコカトリスのお肉を突いてみるとだいぶ柔らかくなっていて簡単にへらで押し切れた。

　「よしよし、どれお味は……」

　へらに着いたヨーグルトソースと押し切ったコカトリスのお肉を少し口に運ぶ。

　んっ！

　ハーブや岩塩、松の実から出る油分にヨーグルトとレーズンの酸味と甘みが絡み美味しい。

　コカトリスのお肉も予想通り煮込んでだいぶ柔らかくなっていてこれなら簡単に噛み切れるくらいになっている。

　煮込んだおかげでワインのアルコールも飛んで、いい風味。

　私はそれをお皿に移してさっき焼いておいた野菜もその周りに置く。

　そして最後に乾燥ハーブを飾りにその上に載せて出来上がり！

　「さあ出来たわよ、『コカトリスのヨーグルト煮込み焼き』よ!!」

　「おおぉっ！　なんかおいしそう!!」

　既にドライフルーツの袋を投げ出しルラは慌ててこちらへやって来る。

　私はルラのお皿を彼女に引き渡しフォークを取り出す。

　「さてと、食べましょう」

　「うん、いただきまーす!!」

　二人して一斉にそれに手を付け食べ始める。

　ぱくっ！

　「もごもごもご、ごくん。うわぁ！　お肉柔らかくなってる！　それになにこれ？　シチューと違ってヨーグルトが甘みと酸味、それに複雑なハーブの香りがソースみたいに絡んで美味しい！」

　「うん、うまくいったわね？　生前に何処かの国でヨーグルトで羊肉を煮込んで食べているって本で読んだのよね。最初はちょっと心配だったけどこれはこれでありだね！」

　言いながら添え付けの野菜も食べる。

　素朴な野菜の味にオリーブオイルとニンニクの味がたまらない。

　どちらかと言うとまったりと優しい味わいでお肉の味が引き立つヨーグルト煮込み。

　それに対して野菜の表面をこんがりと焼いているから塩の効いたパンチのある味は口の中をリセットしてくれてヨーグルト煮込みの飽きを来させない。

　「これ美味しい、マジお姉ちゃん天才！」

　「ふふふ、どうよ！　散々心配してもちゃんと美味しいでしょう？」

　「うん、お姉ちゃんだーい好き♡」

　ぐっ、この子はたまに天真爛漫でそう言う事言う。

　これで半ズボンの似合う小学生の男の子の姿だったらお姉ちゃんいけない事しちゃいそうだと言うのに。

　そんな事を思っていたらルラが食べ終わった。

　「あー、もっと食べたいけど無理しちゃうとまたお腹壊しちゃうしなぁ」

　「うーん、少しのはずがこれってかなりお腹にたまるね。私もお腹いっぱいだなぁ」

　見れば鍋の中にはまだまだコカトリスのヨーグルト煮込みがある。

　付け合わせの野菜もまだフライパンにいっぱいある。

　「仕方ない、これはポーチにしまっておきましょうか？」

　「お姉ちゃん！」　

　私が食べ終わった食器をかたずけ、残りをポーチにしまおうとしたらルラが警告の声を発するのだった。