第3話:仕込みは大事



 私は取り出した瓶を並べる。

 そしてお皿も出してその中身をお皿に出す。


「あれ? それってヨーグルト?」


 覗き込んでいたルラはすぐにそれに気付いた。

 私は頷きながら更に干しブドウもそれに入れる。


 「さてと、じゃあ今度はこれかな」


 言いながらコカトリスのお肉を薄く切る。

 そして鶏のとんかつ位の薄さにしたそれを包丁の背で叩いて可能な限り肉質の繊維を崩す。

 

 「こんなモノかな? ルラ、これ少し時間かかるからドライフルーツでも食べる?」


 「うーん、お腹すいたけど食べていられないかもね。ちょっと始末してくる」


 言いながら首をこきこきと鳴らしながら立ち上がる。



 『ぴぃいいいいいぃぃぃぃっ!!』



 雄叫びをあげながら近くに空から鷲の上半身を持った下半身がライオンで蛇の頭の尻尾を持つ化け物が降りてきた。


 「匂いにつられて来たかな? でもこれはあたしのご飯だからあげないよ!!」


 言いながらルラはこの化け物、確かグリフォンとか言う奴に飛び掛かって行く。

 グリフォンは鋭いくちばしや鷲の鋭い爪でルラを攻撃するけど、「最強」のスキルを持つルラには全く当たらない。


 この子、こっちの大陸に飛ばされてすぐに地竜もぶん殴っていたからこの位は大丈夫よね?

 私はそちらは任せてコカトリスのお肉をヨーグルトに付け込んでその間に別の物を用意する。

 

 玉ねぎ人参、ジャガイモと。


 煮込み料理なら多分硬いコカトリスのお肉も柔らかくなるだろう。

 それにヨーグルトと干しブドウはお肉を柔らかくする効果がある。


 「ふんふんふん~♪」



 どがっ!

 

 バキッ!!



 「よっと!」


 『びぃぃい゛い゛い゛いぃぃぃぃぃっ!!』



 ちらっと見ればグリフォンがルラにボコボコにされている。

 グリフォンの攻撃はルラに全く届かずルラの拳だけがグリフォンにのめり込む。



 何度見ても目を疑う肉弾戦で戦うエルフの少女……



 私だって生前ゲームでエルフってどんなものか大体は知っている。

 しかしどんなゲームでも肉弾戦するエルフなんて見た事無い。


 私の能力含め、こんな事は他のみんなには内緒なんだけどね。



 こっちの世界に転生する時に女神に出会い、そして特典でスキルを付けてもらったけどまさかこんな形で役に立つとは。

 本当は元の世界で生き返らせてもらいたかったけどもう体を火葬場で焼かれた後だったらしい。


 仕方ないので今はこっちの世界で第二の人生を歩んでいるけど、この世界の文明レベルが中世のヨーロッパ並みみたいで不便すぎる。

 さらにエルフってのは寿命が長いせいで意識が目覚めたこの十五年間全くと言って良いほどその生活に変化が無かった。



 そんな中とある事で私たちは遠くの地、イージム大陸に転移で飛ばされたのだけどここってとんでもない場所だった。



 土地は痩せてて作物はあまり育たないし、魔獣や妖魔が沢山いる。

 町や村だって大きな城壁に囲まれて簡単に入れないし、ルラが地竜始末した後にたまたま近くにいた冒険者の人と出会って助けてもらったから何とかやっていけている。


 冒険者の中には流れのエルフの人がいて助かったけど、もう二百年も村に帰っていなかったので私たちの事は全然知らなかったらしい。


 心配されて村まで送り届けようかと言われたけど、シェルさんの名前を出したらもの凄く嫌そうな顔されて近くの町まで案内されて地竜をお金に変えてそれを結構と持たされてここで待つように言われた。

 どうやらシェルさんに関わりたく無いようだった。


 宿にしばらく滞在するように言われたけど、なじみの宿らしく女の子二人でも大丈夫って言われたし、なんかシェルさんの名前出したらみんなビビってた。


 あの人そんなに凄い人だったのかな?

 まあ、こんな所に転移で飛ばされた原因でもあるのだけど……



 しばし待たされることになったけど、その時に精霊魔法ってのを教わって私たちも簡単な魔法が使えるよになった。

 実際は使えると言うより、精霊たちに語り掛けると魔力と引き換えに手伝ってもらえるって感じなんだけどね。


 だから呪文を唱えると言うより精霊にエルフの言葉で呼びかける感じ。


 ああ、そう言えば発音しにくいけどこの世界にはコモン語ってのがあって、人間族とか他の種族もこれで意思疎通している。

 冒険者の人たちのもの凄く聞き取りにくいけど、コモン語もなんだかんだ言って分かるようになっていたのは助かった。


 言葉通じない外国って大変だもんね。


 しかもこのイージム大陸って私たちエルフのいたサージム大陸からかなり遠いらしい。

 

 で、大人しく宿屋でしばらく待っていたのだけどなんか問題があって迎えに来るのが遅れるらしい。

 シェルさんたちがごたごたしているらしく、あの女神そっくりな金髪碧眼のこめかみの横に三つづつトゲの様な癖っ気の有る美少女が動けないらしい。

 

 あの子、エルフの私が見ても可愛かったな……

 胸だって大きかったし!



 ばごんっ!



 『びぃい”ぃ”ぃ”ぃ”ぃぃぃぃ……』


 「まだやる気? 殺さないからとっとと行きなよ」



 バサッ、バサッ!!

 

 

 私がジャガイモや人参、玉ねぎを切りながらそんな事を思っているとどうやらルラの方も終わった様だ。

 ぼろぼろになったグリフォンはよろよろと空に逃げ帰って行った。

 代わってルラが戻って来たけどお腹を押さえている。


 「お姉ちゃんお腹すいた……」


 「はいはい、仕込みは大体終わったからすぐに作るわよ。ちゃんと手を洗いなさいよね?」


 「はーい」


 ルラは水の精霊を呼び出し手を洗い始める。




 さて、こっちもそろそろ始めようか。

 私は鍋にコカトリスのお肉を並べ始めるのだった。 

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