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「おひとり様でしょうか」


小劇場の中で私を待ち受けて居たのは、黒いシルクハットに、これまた黒いスーツで身を包んだ、若い女性だった。


黒いシルクハットとスーツは、妙にその女性に馴染んでいて、スタイリッシュな印象を私に与えた。


「え、ええ…」


私は戸惑いながらも答える。


そもそも、小劇場のような外観をしていたが、ここがどういった所なのかすら把握していない。


ー早く、ミケを連れて出ていこう。


「一人というか、飼い猫がこちらに入り込んでしまって…。すぐに出ていきますので」


そう言って、ミケの姿を探すが、どこにも見当たらない。


ーおかしいな…。確かにここに入っていったはずなのに。


「あの、すみません…。こちらに猫が一匹、入って来なかったでしょうか。綺麗な、三毛模様の毛並の」


「ああ、ミケ様のお知り合いでしたか。

ミケ様なら、もう既にご入場されています。」


そう言って、受付の彼女が、奥の方の扉に視線を向けた。

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