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それにしても、まぁ随分と懐かしい。


今も尚、このような小劇場を目にする事ができるとは。


どこか、私が若い頃に、足繁く通っていた、あのフィルム映画を上映していた小劇場に、似通ったものを感じさせる外観。


ーそう言えば、付き合いたての頃は、良くフィルム映画を見に行っていたな…。


「ニャーゴ」


郷愁に浸っていた私を、聞き覚えのある鳴き声が、連れ戻した。


「ミケ?」


小劇場の入口に、良く見知った、綺麗な三毛模様の毛並みをした猫が、行儀よく座っている。


ミケだ。


「こんな所に居たのか!心配したんだぞ…」


ミケの元へ駆け寄る。


ミケは、甘い鳴き声を出しながら、私の足元に擦り寄った。


「よしよし。おいで」


ミケを抱き抱え、怪我をしていないか、体の節々を確認する。


幸い、どこにも異常は無さそうだ。


「…ん?お前、心なしかふっくらしてないか?」


というより、記憶のミケより幾分か若い気がする。


隠れて誰かの所で、ご飯をご馳走になっていたりしたのだろうか。


ーまぁ、健康的な分には、問題ないか。


「ニャーゴ」


突然、ミケが私の腕の中から飛び降り、そのまま、小劇場の中へと入っていった。


「あ、ミケ。駄目だよ。戻っておいで」


名前を呼んで、連れ戻そうとするが、小劇場の中から、一向に顔を出す気配がない。


ー仕方ない…。


「…失礼しますね」


そう言いながら、半開きになっていた扉を押し開け、私は小劇場の中へと入っていった。

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