6

ふわり、と


懐かしい香りが、辺りを包んだ。


妻とミケと、三人で良く見ていた、淡い桃色の、花の香り。


ひらひらと、一枚の花弁が、私の足元に落ちる。


ゆっくりと、顔を上げた、私の目の前には、


辺り一面、御所染色の景色が広がっていた。


「綺麗だ…」


ーこんな所があったなんて…。


この街に越してきて、もう随分と経つが、こんな場所がある事を、私は今の今まで知らなかった。


ーまだまだ、知らない事の方が多いな。


桜の木々の間を通り抜けるように、長い階段が続いている。


どうやら、ここは、桜が群生している小山のようで、その階段は、山頂の方へと続いていた。


「年寄りには少しきついが、これも何かの縁だろう」


意を決して、体を痛めないように気をつけながら、一歩ずつ、階段を登り始める。

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