3

居間には、庭に面した形でちょっとしたベランダがあり、そこの揺り椅子に、いつも妻が座っていた。


ミケは、そんな妻の膝で、いつも気持ちよさそうに寝ていて、私は、そんな穏やかな風景を見ているのが、好きだった。


妻が亡くなってからは、その揺り椅子には、ミケがいつも座っている。


その姿は、まるで、亡くなる直前の、妻の姿のようでもあった。


「ミケ、ご飯持ってきたよ」


呼びかけるが、反応がない。


居間の揺り椅子に、ミケの姿はなかった。


ー庭にでも、出ているのだろうか。


珍しいなと思いつつ、ミケの名前をもう一度読んでみる。


ミケが、一人で散歩に行くことは、もうほとんど不可能だ。


そんな体力すら、今のあの子には残っていない。


それでも偶に、庭に出ていることもあるが、そんな場合でも、いつもエサの時間になれば、名前を呼べば、すぐに顔を見せてくれる。


なのに、今日は、幾ら名前を呼んでも、顔を見せる事はなかった。


「ミケ…?ご飯だよ」


相変わらず、反応がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る