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それが無くなってしまった今、この春の景色は、独り身の私にはあまりにも広大で、寂しい。


ここ数日、ミケを連れて、街に繰り出してみたりもしたが、どうしても、左側から吹く、風の冷たさを意識してしまう。


ミケも、猫の年齢で言えば、六十の私をとうに超えており、これ以上、散歩に付き合わせる訳にも行かなくなってきた。


より一層、一人の侘しさを意識してしまう。


ーこんなにも、春は静かだっただろうか…。


桜の声も、生命の息吹も、聞こえない。


書くべきものが、今の私にはなかった。


「…ミケに、エサをやりにいかんとな」


ゆっくりと椅子から立ち上がり、書斎を出る。


以前のように、エサを頬張ることも、今のミケにはままならない。


水で、ふやかしてやる必要がある。


ー少し、量を減らしておいた方が、いいだろうか。


食べる量も、格段に減っている。


それでも、あの美しい三毛模様の毛並みは健在なのだから、不思議なものだ。


いつもより、少し減らしたエサを水でふやかし、ミケがいるであろう、居間の方まで、エサを運ぶ。

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