出会い
求人をホームページに掲載して数日。あれから何名か応募者が来たのだが、どの人も理夏の求めている人材とは違ったらしい。そんな事を言っていて、会社がきちん成り立つ程の社員を集められるのか不思議でならなかったが、ここは理夏の会社で、理夏が社長なのだから理夏の決断を信じるとしよう。今、私は理夏と一緒に面接の対応をしている。世間で言うところの面接官だ。まあ、面接官といっても、予め理夏が聞いてほしい事をメモに起こしてくれていて、私の仕事はそれを聞くだけの簡単なものだった。それに対し理夏の仕事はその質問にその人がどう答えるのかやその人の態度、雰囲気などを見て採用するかどうかを決める、所謂見極めの仕事だ。質問をしない変わりに、この決断がこの会社の行く末を左右するかもしれないと言う責任重大な役目だ。理夏の仕事の方が余程大変だと私は強く思うそんな難しいこと私には出来る筈ないのだから。
「次の方どうぞ。」
面接官の私は、面接室のドアに向かって呼び掛けた。
「は、はい。失礼します。」
ドアが開き、入って来たのは若い女性だった。黒髪のロングヘアーに大きな目、すっと通った鼻筋。まるでお人形さんのように綺麗な顔をしていて、その雰囲気はパイプ椅子に座るのが勿体ないと思う程だった。年齢はそんな印象と相まって二十代前半位に見える。履歴書を見てみると、名前は関根唯(せきね ゆい)さん。二十一歳で服飾系の専門学校を卒業後、デザイン系の会社に就職したが退職。デザイン系の仕事に復帰したいと言う思いからこの会社を志望してくれたと書いてある。中々良い人材だと私は思うが、果たしてどうだろうか。
「今の人採用ね。」
そう理夏が言った。私としてもデザインに詳しい人がいてくれるのは心強い。
それから何名か面接をして今日の所は終了だ。
お昼時、私は理夏とコンビニで買った弁当を食べながら雑談をしていた。
「それにしても、今日面接に来た関根さん凄い美人だったね。」
「それ、望が言える事?」
「私はあの子の見た目には関係無いでしょ、美人な人を美人って言って何が悪いの。」
「それはそうだけど、何かね。」
「お世辞を言ってる様に聞こえるって言いたいんでしょ。」
「はい、その通りでございます。」
「いい加減にして、理夏にまでそんな事を言われたら誰とならこういう話ができるのよ。」
「ごめんごめん、悪かったって。さて、そろそろ会議するかあ。」
「そうだね早く決めなきゃ。で、どうするの?」
私達の言う会議とは会社名会議の事だ。実はうちの会社、まだ社名が決まっていない。会社の名前がないと会社として成り立つ事も無いと無いと言うことで、一日一回こうして昼食の時に話し合っているのだ。
「うーん、もういっそ桜川デザインで良いんじゃない?」
「それだとお父さんの会社の傘下なのがバレバレだけど良いの?理夏、お父さんの七光りだと思われたくないんでしょ?」
「そうなのよね。ねえ、もう望が決めちゃってよ。」
「うーん、桜川って名前をオマージュするなら花びらとか?」
「いいねそれ!花びらの英語訳調べて見ようよ。」
「へえPetal(ペタル)って言うんだ。じゃあpinkpetal何て良いんじゃない?」
「流石は望だね、こう言うとき本当に頼りになる。」
「そう言って貰えると嬉しいよ。」
こうして私達の会社名は割りと緩い形でピンクペタルに決まったのだった。
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