開花
退職してから数日経ったある日、私は理夏と一緒に理夏の会社を訪れた、まだ就職はしていないけれど、これから私の職場になる場所だ。オフィスはとても広くて、日当たりも良い。デスク一式と必要な機材はもう運び込まれており、環境は整っている様だった。
「凄いねこんなに広いオフィスだと、心も空間も余裕を持って仕事に臨めそうだよ。」
私はあまりの感動に、まるで子供の様にはしゃいでしまっていた。すると理夏は少し笑いながらこのオフィスの説明をしてくれた。
「ここは父さんが買ってくれたオフィスで、賃貸じゃないから自由に使ってくれて良いって言ってたよ。」
「ずっと前から思ってたけど、理夏のお父さんってどこの会社の社長さんなの?こんな大きいオフィスを買えるなんて相当凄い会社の社長さんなんじゃない?」
私はこれだけの付き合いがあるのに、理夏の家の事を実はよく知らない。今まで理夏に聞いても頑なに答えてくれなかったのだ。
「あれ、言ってなかったっけ?私のお父さんの会社。桜川カンパニーって名前だけど、望知ってる?私、お父さんの会社なのにあまり詳しくなくて。」
「え!?凄い大手の会社だよ!望、知らないの?」
「え、そうなの?全然知らないや。」
桜川カンパニーとは、フード系の大手会社で健康志向なのに美味しい冷凍食品が近頃話題となっている。まさかそんなに大手の会社だったとは。私は驚きつつも、そんなに大きな会社なら、これだけの大きなオフィスを娘の為に買えてしまうのも納得だと思った。
「父さんってばこんなに大きなオフィスはい要らないって言ったのに聞く耳を持ってくれなくて。」
「社員さんは何人位来る予定なの?」
「それが、まだ望以外誰も決まってなくて。今凄い困ってるのよ。」
「え!?そうなの?何で?」
「いやあ、お父さんに望と会社を作りたいって冗談交じりに言ったら本気で検討し始めちゃって。だから急いで望をスカウトしに行ったんだけど、その間にこのオフィスとデスク、機材一式を揃えちゃったから望しか決まってないの。」
「成る程、流石大手企業の社長だね。」
「流石なんて言わないでよ、ありがた迷惑極まりないよ本当。そこでなんだけどさ、望。望に社員のスカウトをお願いしたいんだよね。」
「え!?私が?!無理だよそんなの。」
「大丈夫、望になら出来るって。それを見込んで他の社員より先に望をスカウトしたんだから。」
正直驚いた。理夏が私にそんな大きい期待を寄せていたなんて、私には力不足だ。しかし、せっかくの理夏の期待を裏切らないためにもここは引き受けなければいけないだろう。理夏には沢山の恩を貰ったのは紛れもない事実なわけなのだから。恩返しだと思えば少しは気持ちが楽になるだろう。
「わかった引き受けるよ。あとで後悔しても知らないからね。」
「ありがとう!望なら引き受けてくれると思った。」
こうして私は、理夏への恩返しとして社員のスカウトを引き受けたのだ。さて、これからどうしようか。
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