決意の心

私は橘理夏(たちばな りか)。自分の家の玄関で突然泣き崩れたこの子、望(のぞみ)の友達だ。

「どうしたのさ、望。突然泣いたりして。」

「ごめん、あの時の事思い出しちゃったみたいで。」

「そっか辛かったね、よしよし。」

 あの時の事、とは私と望が出会った高校時代の話だ。入学当時、望は学年でナンバーワンの顔を持っていた。それに加え望は、入学最初のテストでも学年一位を取っていた為に周りから一目置かれていた。要するに才色兼備だった訳だ。そんな望を男子が放っておく筈もなく、男子達は望に言い寄るようになっていった。電話番号、バストサイズ、好きなタイプ、挙げ句の果てには経験人数までも。根掘り葉掘り聞かれていたのを私でも覚えている。わざわざ校舎裏に呼び出し、レイプしようとする男子もいたそうだ。そんな望を見て、女子も望に嫌がらせをするようになった。水をかけたり、顔に傷をつけたり、机の上に花を入れた花瓶を置いたり。低能で、しょうもない虐めだったが、望の精神を壊すのには十分すぎるものだっただろう。その結果、望は不登校になった。当然だ。男子からは嫌らしい目で見られ、女子からは虐められる。学校に望が安心し、逃げられる場所なんてなかったのではと思う。私は、望への虐めやセクハラを見て見ぬふりしてしまった罪悪感から、担任に望の住所を聞き、望の家を訪ねた。インターホンを鳴らしても望の母しか出てこない、話によるともう一ヶ月も部屋に籠りきりと言う話だった。そこで私は申し訳ないと思いながらも、望のお母さんの許可を得て、家に入れてもらう事にした。望の部屋の前、私は恐る恐るドアをノックした。

「望さん、同じクラスの橘です。喋った事なかったけど、覚えてますか?」

私は緊張しているのか、少し震える声でドアの向こうにいるであろう望に声をかけた。暫く待つが応答はない、やがて少し物音がして望の消え入るような声が聞こえる。

「は、はい。覚えてます。橘理夏さんですよね。中に、どうぞ。」

望はゆっくりとドアを開けると、目線を合わせないように少し下を向いて部屋に招き入れる素振りを見せた。

「お邪魔します。」

それに対して私は声を少し震わせながらそう答えた。薄暗い部屋で望と二人きりになった私はずっと言いたかった事を口にした。

「守ってあげられなくてごめんなさい。私、風紀委員なのにただの一回も注意出来なかった。」

私は今の私の精一杯の誠意と罪悪感で謝罪をした。それに対し望は驚きながらも私を許してくれた。

 それから私達は薄暗い部屋の中、少し取り繕ったそれでも誠意のある会話をした。私の取り繕ったつまらない話題を望は一生懸命聞いてくれていた。頷きながら、微笑みながら時々一緒に喋りながら、一生懸命聞いてくれていた。私はこの時、この子の笑顔を一生守ると誓ったのだった。














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