20話 研修旅行(9)

「みなさんは私の優真くんに何をしていらっしゃるのですか……?」


 蓮が帰ってきたものだと思っていたのだが、そこに立っていたのは笑顔の…… 笑顔だが怒気が隠しきれていない三日月さんだった。


 正直誰が見ても笑顔を張り付けているようにしか見えないだろう。

 それぐらい凄まじい覇気を感じる。


「ひぇっ! 三日月さんがなぜここに……」

「そんなことどうでもいいんです。

 で、何をしていらっしゃったのですか?」

「あの…… その……」


 本当に怒ってくれているのだろう。

 普段の三日月さんの様子とは全然違う。


「なにやら優真くんの事を散々侮辱していたと聞いたのですが……

 その侮辱は優真くんの事を選んだ私にしているのと同じ意味を持ちますよ?」

「いえ、三日月さんを馬鹿にしているのでは決してなく……」


 俺に絡んできていたファンクラブ会長は今や体を震わせている。

 周りにいるやつらもその迫力に怯えているみたいだ。


「それで、一応お聞きしますが無実の相手に手を出すような人に私が惚れるとでも思っているのですか?

 自惚れすぎではありませんか?」


 もはや会長は何も言えなくなっている。

 というか口を開こうとした瞬間に三日月さんに黙らされている感じだ。


「あなたなんて眼中にもありません。

 所詮、みんなのリーダーといっても裏の部分はそんなものなんですね。

 まあ意味の分かんないファンクラブなんか作っているぐらいですしね」


 当の本人である俺ですら口を挟めない。

 言葉は丁寧だが、その内容は罵倒のみだ。


「そもそもあなたの顔すら気に入りません。

 お金を積めば誰とでも付き合えると本気で思っていたのですか?

 一度鏡を見てみてはどうですか?」


 三日月さん、それはもはや悪口だよ……

 でも俺の事で怒ってくれているのだと思うと、とても嬉しい。

 

 ただ、ファンクラブ会長は大丈夫か……?

 半泣きだし、顔青ざめてるし……


「本来は完膚なきまでに叩きのめして、自分に自信を抱けないようにするつもりでしたが…… 優真くんからの評価を下げたくはないですし、ここまでにしておきましょうか」


 良かった。

 これ以上話を続けても俺は三日月さんの事を嫌ったりはしないが、三日月さんの部屋にいたであろう女子たちからの評価が変わりそうだ。


 というかファンクラブの会長、そこそこかっこいいと思うんだが……

 なぜ俺の方がかっこいいと言うのだろうか?

 それもまた後に聞いてみるか。


「それじゃあみなさん出ていってください。

 結構時間がたってしまいましたし、そろそろ点呼の先生が来ますよ?」

「あ、ああ…… 分かった」


 時計を見るとかなり時間がたっていた。

 三日月さんとのイチャイチャは今日もお預けのようだ。


 ちなみに、俺たちの部屋が一番最初だったらしく先生がすぐに来たため、会長たちは説教を受けていた。

 

 まあ、ドンマイ。 反省しとけ。



 点呼が終わり、蓮は凛と寝るため三日月さんの部屋に行ったのだが、肝心の三日月さんが来ない。

 嫌われるような事でもしただろうか?

 一度凛に聞いてみることにした。


「あ、もしもーし。 凛?

 三日月さんの様子はどう?

 部屋に来る? ってメールしたのに返事帰ってこないから不安になって」

「ほら、咲ちゃん?

 優真めちゃくちゃ心配してるよ?

 行かない方が嫌われるんじゃない?」


 三日月さんはなにやら布団にくるまって石のように動かないらしい。

 とても不安になってきた。 


「優真?

 咲、どうやら布団から出られなくなっちゃったみたいだから迎えに来てあげて?」


 電話口から三日月さんの凛に怒っているような声が聞こえてきたが、三日月さんのご所望とあればお迎えにいくしかない。


「お迎えに参りました、咲お嬢様。

 お部屋に帰るとしましょう。」

「ちょ、優真くん、ほんとに来たんですか!?

 今は顔見ちゃダメです!」


 なにか言っているが気にしない。

 さっさと連れ帰って、蓮たちを二人きりにしてあげよう。


 三日月さんをお姫様だっこする。

 抱きつかれたりした時にも思ったが、やはり三日月さんは軽い。

 バイトでしていた運搬の方がよっぽど辛かった。


「それじゃ、お邪魔したな」

「うん、ごゆっくりー」


 そう言って、部屋を出た。

 まあ俺たちの向かいの部屋だからすぐに行けるんだけど。


「はぅぅ 優真くんにお姫様だっこされています……

 しかもお嬢様なんて…… 優真くんが執事なのもありかもしれません」


 三日月さんはいつも通りの妄想劇を繰り広げている。

 まあほっといても大丈夫だろう。

 

 それよりも今日のイチャイチャを補給しなければ。

 優真くんパワーがどうのこうのなんて言っていたが、今はその気持ちが分かる。

 

 俺の、俺だけの咲なんだ。

 決して誰かに奪われるのも、離れられるのも阻止しなければ。

 

 彼女こそが、俺の希望なのだから……



――――――――――――――――――――



 part19

 

 ああ、やってしまいました……

 優真くんの前だと言うのに、あんなにも怒鳴り散らかして……

 嫌われてしまったかもしれません。


 たとえ他のクラスメイトからどう思われようが構いません。

 でも、優真くんにだけは……

 優真くんに嫌われた時の妄想も少しだけしてみますか。


 (三日月さんあんな事言ってたけど、やっぱりみんなと一緒で裏はあるんだね。

 ちょっと残念だよ……)


 無理ですこれ。

 考えるだけで涙が出てきました。

 そんなこと言わないと分かっていても、やっぱり気にしてしまいます。


 三上さんは凛ちゃんとイチャイチャするために部屋に来たみたいですが、私は不安で行けません。 


 ――え? 優真くんと電話してる?

 今はダメです! 

 なにしてくれたんですか凜ちゃん!

 もし嫌われていたら……


 行かない方が嫌われる?

 本当にそうでしょうか……


 って、もう来たじゃないですか!

 向かいだから当然ですけど。


 ひゃっ……

 優真くんにお姫様だっこされています……


 それに夜はまだまだ長いよ……? なんて言われてしまいました。

 もしかして出先で襲われてしまう!?


 ま、まだ良くないです!

 せめてお家で…… 避妊具とかもありませんし…… それに――――――――――――


 ――なんて考えるだけ無駄ですね。

 おとなしく拐われることにしましょう。



――――――――――――――――――――



 お読みいただきありがとうございました!

 

 まだ多忙なのに、推しの小説を読んだら一気にモチベーションが出てきました。

 構想を書いたメモ用紙は失くしたので、また文章が過去と繋がっていないかもです。

 

 もう一つ、休んでいた間にもフォローが増え、とうとう100フォローを突破しました!

 初の応援コメントまでもらえて、めちゃくちゃ喜んでます。

 本当にありがとうございます。


 次回もよければよろしくお願いします!

 








 

 

 

 


 









 

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