7話 ほぼ夫婦

 俺は今、貞操の危機に瀕している。

 その訳は……


「えへへ…… 好きな人とハグするとリラックスできるっていう話は本当なんですね」


 そう、俺は三日月さんとハグをしていた。

 (なんでこんなことになったんだ……)

 

 帰宅中の会話を思い出す。


「もっと優真くんを求めたくなっちゃうじゃないですか……」

「待って!? ここ外だからね!?

 せめて家に帰ってからね」

「言いましたね? おうちに帰ったら優真くんが私を手放せなくなるぐらい甘えちゃいます」


 原因は俺だった。

 甘えると言っても少しぐらいスキンシップが増えるぐらいかなと軽く思っていたのが良くなかった。


 帰ってすぐにハグされて、十分ほどこのままだ。

 しかも……


「スンスン…… やっぱり優真くんはいい匂いです…… 電車の中でくっついていたときも欲望を抑えるのが大変でしたよ」


 ずっと俺の匂いを嗅いでいる。

 正直めちゃくちゃ恥ずかしいし、いい匂いがしているのかすら分からないので不安だ。

 しかもなんか物騒なことを言っている。


「三日月さんはお腹すいてない?

 そろそろ晩御飯の時間だけど……」

「私は優真くんパワーを摂取しているのでお腹はすいていませんよ?

 ただ優真くんがお腹がすいて倒れそうと言うならば、後で抱きつくことにしてご飯を作りますが」

 

 さっきからこの調子だ。

 お腹がすいたと言うか悩んだが、三日月さんとのハグの方が自分の中で重要視されたので、このまま身を預けていた。

 

 結局、ハグから解放されたのは15分ほど経った後だった。



「ふぅ…… これでとりあえず甘えるのは十分です! それじゃあご飯を作りましょうか」

「満足してくれたみたいで良かったよ……」

 

 今、三日月さんは満足そうな顔でキッチンに立っている。


「あと、今日の晩御飯は昨日のカレーの残りを食べようと思っているのですが優真くんは大丈夫ですか?」

「俺はカレー好きだし何日でも食べられるよ

 それに三日月さんが作ってくれたやつなら尚更ね」


 そう言うと三日月さんは顔を赤らめて視線を少しそらした。


「優真くんはこういうことを天然で言ってくるので心が持ちません……」

「え、俺何か良くないことでもした?」

「いえいえ、お気になさらず」


 はぐらかされたのは気になったが、カレーは美味しかったし、三日月さんは可愛かったので気にしないことにした。


「そういえばこれも伝え忘れていましたが、私は週一でお父様の会社のオンライン会議に出ることになっています。

 なので、優真くんは1時間ほどリビングで待っていてもらっても大丈夫ですか?」 

「大丈夫だよ。

 さすが大企業のお嬢様だね」


 晩御飯を食べ終わって談笑していた時に、そう伝えられた。

 (小説では聞いたことあったけど、本当にこういう人もいるんだな……)。


「でも一度ぐらいは、顔を出してくれてもいいんですよ? すいませんうちの旦那が…… って言うのに憧れがあるので」 

「さすがにやらないよ……」


 やっぱり三日月さんは三日月さんだった。



 そうして一時間ほどテレビを見て時間をつぶしていたら三日月さんが戻ってきた。


「おかえり」

「ん~! やっぱり帰りを待ってくれている旦那様がいるのは最高です!

 あと、頭なでなでもしてほしいです」


 恥ずかしかったが、三日月さんもお疲れだろうということで素直に頭をなでることにした。

 

「おつかれさま。

 今日も頑張ったね」

「えへへ…… 幸せです……」


 (今三日月さんに告白しても受け入れてくれるんじゃないか……?)

 

 そう思ってしまったが、いつ判断するかはもう決めてある。

 そのときに向けて心の準備を進めるまでだ。


「なでなでも癒されますね……。

 さて、そろそろお風呂の時間ですし行きましょうか」

「待って、行きましょうかって何?

 今日も一緒にお風呂に入るの?」

「当たり前じゃないですか。

 そのために水着だって用意したんですから」


 そういって三日月さんは上着を脱ぎ出した。


「じゃーん! どうですか?

 優真くんの分も用意してありますよ」

「えーっと…… とりあえず俺の分はいいとしてなんで三日月さんはスク水なの?」


 そう、三日月さんはスク水だった。

 少しサイズが小さいのか、三日月さんの肌に張りついて体のラインが浮き出でいた。

 思わず顔をそらす。


「これなら優真くんを誘惑できると思ったのですが…… 好みじゃないです?」

「そういうことじゃないんだけどね……」


「あ、もしかして私がこれを着て、学校の授業で男の人の視線を集めている姿を想像して嫉妬しちゃいました?」

「いや…… まあ……」

  

 三日月さんが急にニヤニヤしだした。


「大丈夫ですよ。 この水着はオーダーメイ

ドでこの時のために作ってもらいましたので。

 水泳は家の方針で受けたことがないんです。

 それに…… こんな姿を見せるのは優真くんにだけですよ」


 (三日月さんは心が読めるのだろうか……)

 俺が考えていたことを見事に見抜かれた。

 そして、こんなことで不安に思ってしまう自分が悲しくなってしまったのだった。



 そうして流されるまま風呂場に連れていかれた。


「かゆいところはございませんかー?」

「大丈夫だよ。 三日月さん、こういうことも慣れてるんだね」


 今、俺は三日月さんに頭を洗われている。


 三日月さんが言うには、将来どんなことが起きてもいいように、一通りのことは練習するらしい。

 本物の美容室で洗われているような心地よさを感じる。


「優真くんが気持ち良さそうでなによりです。

 それじゃあ体の方も洗っていきますねー」


 そう言って三日月さんは石鹸を自分の体に塗り広げた。

 不思議に思っていると、急に俺の背中にくっついてきた。


「ちょ、三日月さん!? 何してるの!?」

「ナニって…… 優真くんの体を洗っているだけですよ?」

「その洗い方が問題なの!」

「本で、こうすれば男性は虜になると書いてあったのですが……」

「その本をこれから参考にするのはやめよ?」


 その間にも三日月さんは自分の豊満な双丘を使って俺の背中を洗っている。

 水着ごしとは言え、さすがにまずい。

 柔らかい感触が直に伝わってくる。


「それじゃあ前も……」

「いや、さすがに前は大丈夫だから!

 三日月さんの気持ちはよく伝わったから!」

「むー…… まあ、さすがにこれ以上はルールがありますしやめておきましょうか。

 私の体も洗ってほしかったですが、優真くんが狼さんになっちゃいそうですし」


 そういって俺から離れて体を洗った三日月さんは浴槽に入っていった。

 俺も同じ浴槽に入ったはずなのだが、そのときの記憶はほとんど残っていなかった。


 その後は三日月さんとまったり談笑していたが、夜遅くなってきたので寝ることにした。


「今日も優真くんは奥で大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」


 そうして俺達は布団に入っていった。

 それから少しして、


「優真くん、今日も抱きしめてもらっていいですか?」

「え、昨日は俺から抱きしめたの?」

「はい! 抱きしめてほしいって言ったらすぐに抱きしめてくれましたよ?」


 俺にそんな記憶はない。

 おそらく眠気に襲われていたため、すんなり受け入れたのだろう。

 

 恥ずかしいし、やるのをためらっていたが、三日月さんの上目遣いでの催促に、結局俺は抱きしめることにした。


「えへへ…… 私、優真くんなしでは生きられない体になっちゃいました……」

「それはいいことなのか……?」


 三日月さんは嬉しそうに目を細めて俺に抱きついている。

 その可愛さと暖かさに包まれながら俺は夢の世界へと入っていった……。

 


――――――――――――――――――――


 part7

 夜はいっぱい優真くんに甘えちゃいました!

 緊張している優真くんを見ると、母性が溢れてきちゃいそうです。

 

 その後のお風呂では優真くんと水着を着て入りましたが、作戦は大成功です!

 この胸のことで喜んだことはなかったのですが、今だけは感謝しています。

 

 それに、優真くんはちゃんと嫉妬までしてくれました。

 好意は持ってくれているみたいで安心です。

 

 今日もとてもいい一日になりました!

 


―――――――――――――――――――― あとがき


 お読みいただきありがとうございました!

 時が経つのは早いもので、気づけば毎日投稿が始まって一週間が過ぎました。

 

 そして、30フォロー&500PVを達成いたしました!

 皆様のおかげで今日も頑張れております。


 最後に、前回もお読みいただきありがとうございました。

 昨日、初の一日で100PVを達成し、思わず声が出ました。(笑)

 本当にありがとうございます。

 次回もよろしくお願いします!
























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