6話 お買い物(後編)
「うわぁ……」
人生初のショッピングモールは思っていたよりも大きかった。
店がたくさんあるし、人も多い。
こんなに広ければ人気が出るというのも納得だ。
「まずは家電を買いに行きましょうか」
そう言われついていこうと思っていると、三日月さんに袖をつままれた。
思わぬ行動に少し戸惑う。
「ど、どうしたの?」
「優真くんをほっといたらはぐれそうですし、手綱みたいなものです」
「そ、そう……」
しかし、ネットで調べた情報では、デートでは男性がリードすることが大事とあった。
それならば俺から手をつないだ方が良いだろう。
「ごめん、手を離してもらっていいかな?」
「え…… 私とくっつくのは嫌ですか……?
それか言い方が悪かったですかね……?」
「いや、そういうことじゃなくてね」
三日月さんの影の部分が若干見えたが気にしないことにして、手を握った。
本当は恋人繋ぎをするか悩んだのだが、人目が気になるためやめておいた。
「ゆ、優真くん!? 急にどうしましたか?」
「三日月さんとはぐれたら嫌だから、手を繋ごうと思ったんだけどダメかな?」
「い、いえ大丈夫というかむしろ大歓迎というか……」
「なら大丈夫だね、それじゃあ行こっか」
顔を赤くして下を向いている三日月さんと手を繋ぎながら、俺達は家電量販店へ向かった。
「そういえば何を買うか決めてるの?」
「二人で住むなら電子レンジとかも大きい方がいいかなと思ったのでメインはそれですかね。
あとはトースターとか買おうと思ってます」
さすがお嬢様、物を買う時に値段の吟味などしない。
そういえば、三日月さんのグループは家電も取り扱っていると聞いた。
だからこそ、そのような知識がついているのだろう。
それと、三日月さんが買い物している間、俺は周りを見渡していたら離れたところに木下さんの姿が見えた。
さすがに大企業のお嬢様が護衛なしで出歩く、ということはさすがにないようだ。
家電を買い終わって時刻はお昼過ぎ。
「買うものは買ったけど、次はどこに行く予定なの?」
「優真くんはショッピングモールに来るのは初めてなんですよね? それなら少しうろうろしてみましょう!」
そうして俺たちはショッピングモール内をうろうろすることにした。
「わぁ…… かわいいねこちゃんです」
今、三日月さんは、ショーケースに飾られているねこに向かってなにやら話しかけている。
正直めちゃくちゃかわいい。
(三日月さんに猫耳…… ありだな……)。
俺にそんな趣味はなかったはずなのだが。
自分の趣味まで三日月さんに変えられていってるのかもしれない。
「ねこちゃん、おうちで飼ってみたいですね……」
そう言って三日月さんは俺の方を見てきた。
許可を求めているのかは分からないが、もしそうならすんなり了承するつもりだ。
「でも私たちが学校の時はお世話できる人がいませんもんね…… それはかわいそうですし二人とも大人になってからですね」
そう言って少し残念そうにねこの方をまた見始めた。
三日月さんの未来予想図には俺もいるみたいだ。
少し顔に熱を帯びる。
(おそらく三日月さんは婚約を俺が断るとは思っていないんだろうな……
俺も断るつもりはないんだけど)。
三日月さんと大人になって、結婚して、子供もできて……
「優真くん? どうしましたか?」
そこで三日月さんに現実へと引き戻された。
ねこを見るのはもう満足したのだろう。
「ううん、大丈夫だよ。
それじゃあまたうろうろしよっか」
この未来を叶えられるかは俺次第だ。
頑張らなければ。
そうして次に三日月さんと向かったのはゲームセンターだった。
「ちっちゃいねこちゃんのぬいぐるみが……
でも私クレーンゲームは苦手ですし……」
三日月さんはなにやらクレーンゲームの前でうろうろしていた。
おそらくその中にあるねこのぬいぐるみが欲しいのだろう。
「一回やってみたら?」
「いえ、私は苦手なので…… そうだ!
優真くん、やってみてもらえませんか?」
「え、俺? 俺やったことないけど」
だが三日月さんはキラキラとした眼差しでこちらを見てくる。
せっかくならやってみることにしよう。
(取れたら喜んでくれるんだろうな……)。
自然と手に力が入った。
「えへへ…… ねこちゃんのぬいぐるみが三つも…… 優真くんとても上手でしたね!」
どうやら、俺はクレーンゲームの神様に好かれていたらしい。
偶然一回でとれた。 しかも三つも。
そのおかげで三日月さんは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめている。
「本当に優真くんはクレーンゲームをやったことがなかったんですか?
それにしては場所が完璧だったようですが」
「そりゃあ見たらある程度の場所は分かるからね。
そこに合わせるだけだよ」
「そ、そうですか……」
三日月さんに信じられないという目で見られた。
だけどその三日月さんの表情も可愛かったから良しとしよう。
そのあともうろうろしていたら気づけば夕方になっていた。
三日月さんは常に嬉しそうでいてくれたし、自分もとても満足だ。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだね」
そうして俺達は家に帰ることにしたのだが、またしても問題が起きた。
今の時間は帰宅ラッシュ真っ只中である。
行きよりも明らかに人が多い。
「三日月さん大丈夫? 痛かったり狭かったりしない?」
「だ、大丈夫です。 大丈夫ですけど……」
今、俺達はほとんど抱き合っている体制だ。
めちゃくちゃいい匂いがするし、一緒に寝ていたときのような温かさも感じる。
ここで良からぬことを考えて不安にさせないよう、俺は駅につくまで無心でいたのであった。
「今日はとても楽しかったです!」
「それは良かったよ。
俺も楽しめたし、ありがとうね」
自宅に帰っているときも俺達は手を繋いでいた。
あの後は俺から手を繋いだり、三日月さんから繋いできたりを繰り返していたが、最終的に俺から手を繋ぐように自然となっていた。
「ねこちゃんのぬいぐるみも取れましたし、お買い物もできました!
これも優真くんがいてくれたからですね!」
「俺が楽しめたのは三日月さんのおかげだよ。
俺だけだとよく分からなかっただろうし、なによりデートもできたからね」
すると三日月さんは腕を絡めてきた。
柔らかい体の感触に再び焦りが生まれる。
「そんなこと言われたら、もっと優真くんを求めたくなっちゃうじゃないですか……」
「待って!? ここ外だからね!?
せめて家に帰ってからね」
「言いましたね? おうちに帰ったら優真くんが私を手放せなくなるぐらい甘えちゃいます」
(俺の理性は大丈夫だろうか……)。
またひとつ、不安なことが増えたのだった。
――――――――――――――――――――
part6
今日は優真くんとのお買い物でした!
どうやら優真くんは初のショッピングモールだったようで、めちゃくちゃ緊張している様子でした。
そのため私がリードしようとしたのですが、逆に手を握られてリードされました……
(正直とっても嬉しかったです)。
その後はペットショップでねこちゃんを見たり、ゲームセンターでぬいぐるみをとってもらったりと、充実した一日になりました。
常にリードされっぱなしだったことがほんのちょっぴりだけ不満でしたがね。
ただ、家で優真くんに全力で甘える許可をもらったので思う存分甘えようと思います!
明日の予定なのですが、ゆっくりして明後日の学校に備えるつもりです。
優真くんとの登校…… 考えただけでわくわくします!
明後日の学校が楽しみになりました。
――――――――――――――――――――
あとがき
お読みいただきありがとうございました!
これで買い物回は終わりになります。
次回は夜の出来事にする予定です。
三日月さんの本気の甘えが見れちゃいます!
最後に、前回もお読みいただきありがとうございました。
常連さん、ご新規さん、とても感謝しております。
次回もよろしくお願いします!
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