5話 お買い物(前編)

朝 八時頃。


(ん……? もう朝か。

昨日は疲れてすぐに寝てしまったのか……)。


 温かい布団から出たくはないが今日は朝からバイトのはずだ。

 そろそろ起きて準備しなければ。

 

 そう思い目を開けた瞬間、目の前には俺に抱きついている三日月さんがいた。


(な、なんで三日月さんと抱き合いながら俺は寝てるんだ!?

 確かに昨日一緒の布団で寝たけど……)。


 さすがに抱きついていてはまずいと思い離れようとすると、三日月さんはうっすらと目を開けた。


「んむぅ…… ろうしましたか? 休日にしてはずいぶんと早い時間れすよ? まだ一緒に寝ていましょうよ……」


 そう言うと三日月さんは俺を抱き寄せて、自分の胸元に押し付けてきた。

 柔らかく温かい感触に包まれ、再び眠気が襲ってくる。

 ここで二度寝は非常にまずい。


「ちょ、三日月さん!? 寝ぼけてます?」

「んぅ? 寝ぼけてなんかないれすよ?」

「なら体を離していただけると……」


 しかし三日月さんは体を離してくれない。

 それどころか、もっと力強く抱きしめてきた。


「優真くんは私と寝たくないんれすか……?

 私なんていらないんれすか……?」


 さらには、三日月さんは今にも泣き出しそうな声で言ってくる。


(こんなことされて離れられる人なんていないだろ……)。


 結局しっかり二度寝することになってしま

った。



そうして次に目覚めたのは十時頃だった。


(結局二度寝してしまった……)。

そろそろ起きなければと思い体を起こすと、三日月さんも目を覚ましたようだ。


「ふわぁぁ…… おはようございます優真くん。 元気そうでなによりです」

「おはよう、三日月さん」

「今からご飯を作るのですが、苦手なものとかはありませんか?」

「俺はなんでも食べられるから大丈夫だよ」


 そう話しつつ、料理場に二人で立つ。

 昨日、料理は忙しくない限り二人で作ると決めたので、俺も手伝っている。


 すると、料理中三日月さんは顔を赤らめながらおずおずと聞いてきた。


「あ、あのそういえば私、寝ていた時に優真 くんに何かやらかしたりしませんでしたか……?」


 おそらく、俺を引き留めていたとき少しだけ意識があったのだろう。


「俺は寝てたから分からないよ。

 なにか心当たりがあるの?」

「いえ、そういうわけではないのですが……

 それならば気にしないことにします」


(このまま黙っていればまた可愛く引き留めてくれるかもな……)。

 俺がそう思っていたことを三日月さんが知ったのはしばらく後のことであった。


 ちなみに出来上がった料理は日本人の朝食!という感じのメニューでとても美味しかった。



「そういえば今日は何かするの?」

「今日は二人でも快適に暮らせるように家電とかを買いにいこうと思っています。」


 朝ごはんを食べ終わってゆっくりしていたが、もうそろそろお昼だ。

 ちょうどいい時間帯だろう。


「近くのショッピングモールに行こうと思っているのですが、優真くんはどうします?」

「俺も一緒に行きたいかな。

 三日月さん一人だと、荷物を持つのが大変そうだし手伝うよ」

「それなら実質デートですね!

 とっても楽しみです!」


 可愛すぎる笑顔に思わずクラっとする。

 これを自然でやっているのだから恐ろしい。


「それじゃあ準備してくるので優真くんも着替えてお待ちください」

 そう言って三日月さんは部屋に入っていった。


(しかしデートか…… 俺にエスコートできるのかな……)。

 服装は自分で常に気にしていたため大丈夫だと思うが、デートは始めてだ。

 急に不安になった俺は三日月さんが戻ってくるまでネットで調べていたのであった。


 少しして三日月さんは戻ってきた。


「この服装どうでしょうか?

 精一杯考えたのですが……」

 

 そう言われ三日月さんの方を見ると、そこにはまるでモデルの様な人が立っていた。

 白の清楚な服装にロングスカートを組み合わせていて、思わず見つめてしまった。

 

(こういうときはほめるのが大事だったな)。

 調べた情報がいきなり役に立った。

 

 おそらく調べていなくてもほめていたとは思うが、調べたことで根拠があるため、安心して伝えられた。


「三日月さんに似合っていて可愛いよ。

 本物のモデルって言われても信じちゃう」

「本当ですか!? 優真くんに可愛いと言ってもらえるなんて…… 必死に考えた甲斐があったというものです!」

 

 三日月さんとの今後を想像する、というか、離れることがそもそも考えられなくなっていた。


「そういう優真くんもかっこいいですよ?

 とてもお似合いで、一緒に隣を歩けることがとても嬉しいです!」


 同棲して一日も経っていないのに結婚を認めるか悩み始めてしまったのだった。



 電車でショッピングモールに行こうということになったので駅に向かっていたが、人の視線がこっちに向いているのが分かる。


「あの女の子誰だろう? めちゃくちゃ可愛くない?」

「分かる~ すごい可愛い。

 隣の人は彼氏さんかな? 美男美女カップルって感じで羨ましいよね~」

 

 そんな声が聞こえてきた。

(さすがに恥ずかしいな…… 三日月さんはこういうの慣れてるのかな? さっきから少しも動じないし……)。


 すると、三日月さんは急に俺の手を握ってきた。

 周りからはさらに声があがる。


「あ、あの三日月さん?」

「いいじゃないですか。

 少しぐらい優越感に浸りたいんですよ。」


 こんなことを言っているが三日月さんは耳まで真っ赤だ。

 やっぱり恥ずかしいのだろう。

 そのまま一言も話せず駅についたのだった。


「この電車に乗って15分ぐらいでつきます。

 ―――優真くんどうしました?何やら少し顔色が悪いですよ?」

「ああ、ごめん。

 あんまり人が多い時に電車に乗ることがなかったから緊張していてね」

 

 思っていたよりも人が多い。

 (満員電車は痴漢にあったりするらしいし、三日月さんは可愛いから守らないと……)。


 電車に不慣れというわけではなかったが、隣に三日月さんがいるだけで緊張していた。

 だが、そんなことを伝えるわけにもいかなかったのでごまかしたのだ。


「そうでしたか。

 もし、体調が悪くなったりしたら言ってくださいね?」

「分かったよ」


 そうして俺達は電車に乗り込んだ。

 予想通りすごい人だ。

 俺はネットで調べた通りドアの横のスペースに身を滑らせ、三日月さんを間に入れた。


「わざわざ気にしていただいてありがとうございます」

「俺も男だからしっかりしないとね」


 ただ、この姿勢も辛いものがあった。

 まず三日月さんとの距離が近い。

 少しでも顔を下げるとキスできてしまいそうな近さだ。

 だが、後ろは人でごった返している。

 下がるに下がれないのだ。


 (三日月さん、俺と同じ石鹸で体を洗ったはずなのに俺とは違うすごくいい匂いがする……)。

 

 そう考えてしまったが、すぐに切り替えて考えないようにした。


 そのようなことがありつつも、俺達はショッピングモールについたのだった。



――――――――――――――――――――



 part5

 私は今、電車に揺られています。

 

 優真くんが気を使ってくれたので、安心して電車に乗っていられるのですが、一つ問題がありました。

 

 優真くんがとても近いのです……

 少しでも私が背伸びするとキスできそうな距離にいます。

 

 ただ、後ろの人混みを見る限り優真くんの姿勢もかなり辛いようです。

 無茶してほしくはないのですが、これ以上近づかれると私が嬉しさのあまり死んでしまいそうなので黙っておくことにしました。

 

 それともう一つ、優真くんと料理していた時にあまり目を合わせてもらえませんでした。 

 

 私は過去に、お母さんに駄々をこねて布団から出ないように引き留めていたそうなのですが、それを寝ぼけて優真くんにやってしまっていないかとても不安です。

 

 もうすぐショッピングモールにつきます。

 人生初デートなので緊張しますが、優真くんとならなんでも乗り越えていけそうです!



――――――――――――――――――――

あとがき

 

 お読みいただきありがとうございました!  

 女性との添い寝に買い物…… 一度はしてみたかったものです。

 小説ならなんでも叶えられるのでモチベ上がりまくってます!(笑)

 次でお買い物は終わる予定です。

 果たしてどんな買い物になるのか!?

 

 あと、お知らせですが一話と二話を合体しました。

 少しでも読んでくださる方が増えるよう努力していきます。

 

 最後に、みなさまの応援のおかげで毎日投稿を続けられています。 

本当に感謝しています。

 よければ次回もよろしくお願いします!













 

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