不良の俺と、癒やしの猫
夕日ゆうや
捨て猫
「こら! 待て!」
俺は教師から追いかけられている。
ジャンプし、柵を乗り越え、近くの路地裏に逃げ込む。
今日はどこで過ごすか……。
昨日はゲーセン。その前はカラオケ。ネットカフェにでも行ってみようか。
そう思い、足を進める。
にゃーん。
「ン?」
にゃーん。
そこには段ボールの中に入った白い子猫がいた。生まれて一ヶ月程度か。
「おいおい。てめーも独りぼっちかよ」
両親はいない。最近、ふたりともテロに巻き込まれて死んだ。今はばあちゃんが俺の世話をしてくれている。
そんなばあちゃんは動物が嫌いだ。
でも、でもなー。
「よぅし。おめー。ついてこい」
俺は子猫を拾い上げて、家に帰る。
自室に子猫を置いていくと、俺は近くのコンビニに行く。
牛乳を買って帰る。
子猫の食べるものなんて牛乳くらいだろ。
一応、ペットのコーナーも見る。
やはりキャットフードか。ん? この砂、なんにつかうんだ? まあいい。必要になったら買いにこよう。
俺は買い物を終え、部屋に戻ると、子猫が段ボールの中でお漏らしをしていた。
「げ。汚しやがって!」
俺はトイレットペーパーで拭う。
皿に牛乳を入れ、さしだす。
子猫は牛乳はペロペロと飲み始めた。
一息つくと、電灯のヒモを人に見立ててシャドーボクシングする。
そのヒモに引きつられ、子猫が左右にゆれる。
「なんだ。お前もやってみたいのか?」
みゃーん。
こいつ。かわいいかよ。
俺はヒモを探し周り、ばあちゃんの部屋にあったヒモをもってくる。
そして、ヒモで子猫に投げつけてみる。
小さいながらも、パンチを繰り出す子猫。
「そうだ。名前つけねーとな」
そもそもこいつの性別はなんだ?
俺は子猫を抱え上げ、確認する。
みゃーん。
子猫は抗議の声を上げる。
「待っていろ。あ。メスか」
アレがないのだ。メスだろう。
しかし、メスの名前か。なにがいい?
考え込んでいると、ばあちゃんが帰ってくる。
「なんだい。学校はどうした?」
ばあちゃんは典型的な学校信者だ。学校に行けば、未来はなんとでもなると考えている。
「うるせー」
俺はそんな返ししかできない情けないやつ。でも学校に行かなくても、俺は生きていける。
学校なんて豚箱みたいな場所に行く必要性は感じない。
この顔のせいで、仲間ができた試しもない。みな、恐れて離れていく。
性格もきついところがあるらしく……いや、その前に知ってくれる友がいないのだ。
「夕食は何がいい?」
ばあちゃんのいつもの問いだ。
でも、この問いに応えて、その通りのメニューがでたことはない。
食事を終えると、子猫の様子をみる。
無事なようだ。
「なんだい?」
俺が慌てて部屋に戻ったのに気がついたのか、ばあちゃんが様子を見に来る。
部屋のドアノブをつかみ、開かないようにする。
「うっせー。ばあちゃんには関係ねー話だ」
「うそつくんじゃないよ。お前さんの声で分かるんだい」
どうやら声のトーンでうそをついていると、分かっているらしい。
みゃー。
子猫が俺の足に飛びついてきて、俺は慌てて足を動かす。
「なんだい。子猫なんて、連れ込んで」
ドアを開けるばあちゃん。その目に子猫が映っている。
「さっさと返しておいで」
「いや、こいつは俺が育てる。捨てるのだけは勘弁してくれ」
俺は人生初の土下座をする。
「この通りだ! 飼わせてくれ!」
「……そこまで言うなら、学校には毎日通うんだよ?」
「いや、ばあちゃん。昼間のこいつはどうするんだよ?」
子猫を指さし、訊ねる。
「それなら、わしが見ておくから安心せい」
「猫が嫌いなのにか?」
「そうじゃ。子どもだって育てたんだ。いいじゃろ?」
「分かった。任せる」
確かにあの両親を育てた実績がある。任せておけばいいだろう。
「して。この子の名前は?」
「あ~。それなんだが、まだ決めてなくてな」
「ほう。じゃあ、名前つけないとな……。スズコとか、ギンコとかどうじゃ?」
「いや、もっと最近の、明るい感じがいいな」
「古くてすまんのう」
「そうだ。ココってのはどうだ? 心からとってみた」
「いいのう。ココ」
子猫に話しかけると、嬉しそうにはねる。
「今度、遊び道具でも飼おうかね」
「そうだな。俺、明日学校行く」
「ほう。それはいい心がけじゃ」
「ココの世話、任せる」
※※※
ココを飼い始めて一ヶ月。
順調にココは成長し、また俺も赤点ではあるが、学校に通い出した。
ばあちゃんは最初嫌々世話をしていたが、その内にココのかわいさに触れたのか、少しずつ触れあう機会も増えていった。
俺に友だちができた。そいつとはココの話で盛り上がったのだ。そして家に来て、実際に触れあった。
そいつをきっかけに俺の交友関係は広まった。
俺は口は悪いが悪い奴じゃない、という認識が広まったようだ。
ココを飼い始めてからいいことばかりだ。
これもココのお陰か。招き猫とは言うが、その通りなのかもしれない。
お陰でばあちゃんの友だちも増えたという。
地域で猫を飼っている者同士、コミュニケーションを取り合っているのだ。チョコやネギは食べさせてはいけない。キャットフードは水で膨らませるべきだ。猫砂にトイレを覚えさせる。
色々と気づきや勉強になることも多い。
勉強がこんなに大切だとは思わなかった。
俺の勉強は始まったばかりだ。でもこれでいい。
人生、こんなに楽しいことはない。ココと遊んでいると、心が落ち着く。癒やされるのだ。
みゃー。
みゃーん。
俺はこの子、ココに救われたのだ。
アニマルセラピーは本当の話だったんだ。
俺とココはこれからも一緒に生きていく。
そう固く誓った。
俺の夢はアニマルセラピーだ。
不良の俺と、癒やしの猫 夕日ゆうや @PT03wing
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