第19話 有名パーティ?
「××××」
『こちらは何と?』
「そ、それは、あ、ギルドに戻らないと。混んでくるかもしれないよな?」
「××××」
『そうかもしれませんね』
追及の手を逃れるようにそそくさと馬車扉に手をかける。駄竜が胡乱な目をしていたから尻尾を引っ掴み一緒に外に出ると、ベルヴァも後に続いた。
くああとあくびをするケラトルを撫でたい衝動にかられるが、「急ぐ」と言った手前真っ直ぐギルドに向かう。
冒険者ギルドが何だか騒がしい。さっき来た時はパーティ内で静かに談笑している姿はあった。
ところが今は、どよめいているというか、ざわついていると言ったらいいのか先ほどと雰囲気が異なる。
何かなと耳をそばだててみても、声が聞こえてくるものの当たり前だが何を言っているのかさっぱりわからない。
ベルヴァに顔を寄せ状況を聞いてみる。きっと彼女の耳にも声が届いていると思うから。
「×××××」
『有名な冒険者パーティが戻って来たみたいですよ』
「そう言う事か。ファフサラス。拾った声を聞かせてくれるか」
囁くために駄竜を胸に抱き、彼の耳を指先でつまんで囁く。
めんどくさそうに欠伸をした彼は次々に声を翻訳していった。
『あのフェイロンを仕留めたそうだぜ!』
『すげえな! これでSランクになるんじゃねえか』
『2つめのSランクパーティか! 俺たちも早くAにあがりたいぜ』
『あなたじゃ無理よ。あーあ。他のパーティに行こうかしら』
なるほど。ヒーローの凱旋と言うわけか。
冒険者は個人のランクとパーティのランクがあったんだよな。話から察するにSランクというのが最高ランクにあたるらしい。
Sランクにあがるとなったら、これだけ話題になるのか。くわばらくわばら。
名声ってのも使いようだけど、言葉も通じない中ではデメリットの方が遥かに大きい。
受付嬢のところでは、話題のパーティとやらが角やら鱗やらを並べ遠巻きに冒険者たちがその様子を見守っていた。
終わるまで待った方がよさそうだな。受付嬢が四人とも例のパーティにかかりっきりだもの。
件のパーティは四人。ゴツイ大柄な男、長髪のローブ姿、肌面積が大きい女戦士に法衣姿の金髪の女の子か。
ゲームでよく見るようなパーティ構成なのかも。タンカー、魔法使い、アタッカー、僧侶だろうか。これに迷宮探検とかだとシーフが加わる(俺的ゲーム調べ)。
金勘定に興味がないのかつまらなそうにローブ姿と受付嬢のやり取りを眺めていた女戦士と目が合った。
彼女はつかつかと俺たちの元まで歩いてくるではないか。その姿は金色のたてがみをなびかせる肉食獣のようで圧倒される。
彼女はピタリと俺たちの前で足を止め、唐突に握手を求めてきた。
いきなり握手って、冒険者は挨拶の前に握手を交わす風習なのか?
ん、彼女の手は俺をスルーしてベルヴァの方へ向かった。
「お……」
変な声が出た。決して、握手をしようと手を差し出そうとしていてわけじゃない。わけじゃないんだからな。
『ドラゴニュートの冒険者とは珍しい。良ければあたしたちと一緒にやらないか?』
女戦士の狙いはベルヴァだった。話題のパーティから初対面でいきなり誘われるなんてすごいじゃないか。
ドラゴニュートはこの世界における戦闘民族的なものじゃないだろうか。受付嬢も大歓迎な雰囲気だったし。
まあ、ベルヴァの対応は見るまでもないんだけどね。
彼女はあいそう笑いさえ浮かべず冷淡にかぶりを振る。女戦士から差し出された手に触れようともしない。
『私はこのお方とパーティを組ませていただいています。他に行くつもりはありません』
うわあ。言い方。その言い方やめよう、な。
ほら、予想通り女戦士の表情がこわばっているじゃないか。更には野次馬たちの視線も痛い。
ハラハラしているってのに駄竜が今言わなくてもいいだろうってことを俺の頭の中へ叩きこんできた。
『あの鱗。お主が不用意に蹴り飛ばし、喰い損ねた肉だな』
「そんなもん、覚えてない。あ……あれか」
思い出したよ。
確かベルヴァがフェイロンって言ってたよ。ワイバーンの上異種とか何とか。
あの時はまだジャンプしながら狩をするという発想がなくて、邪魔して来たら叩き潰して進むだけだった。なので蹴飛ばした後、収納していない。
それを食いしん坊の駄竜が「喰い損ねた」とかまるで俺が悪いみたいに言ってきやがる。ここでは公衆の目があるから我慢するが、馬車に戻ったらよおく言い聞かせてやらないとな。
『ふうん。そうは見えないけど、お貴族様かい。その男。あんたは護衛ってところかい?』
『違います! ふぐう』
駄竜と下らんことを喋っている間に女戦士に対してベルヴァが要らぬことを言いそうになったので慌てて口を塞ぐ。
どうどう。そこは黙っておこうな。「薬師様です」も「英雄様です」もアウトだよ。こういうことも言葉が通じればすぐに割って入れるんだよなあ。
事前に彼女へ指示を出しておくこともできるけど、突発的な事態にまで備えることは難しい。元々、受付嬢にカードのことを聞いてとっとと撤収するつもりだったからなあ。
さささっと彼女の肩に手を回し、人気のない壁際まで退避する。
そこで彼女から体を離す。
一方の彼女は何が起こったのか分からないといった風から移動しているうちに大人しくなって、今や耳まで真っ赤になっていた。
今のやりとりはまずかったと気が付いてくれたのだろうか。
理解してくれたのかもしれないけど、直接言っておいた方がいいだろう。彼女の顔へ口元を寄せるとビクッと彼女の肩が揺れた。
「俺の事を持ち上げなくていいから。冒険者ギルドカード通り、ベルヴァさんがAランクで俺はDランク。俺の方がおんぶにだっこに見えて当然なんだって」
「×××××」
『ですが……ヨシタツ様に対する侮辱、黙認することなどできません』
どうしたものか。何度か「目立ちたくない」と彼女に伝えているけど、彼女の目立つと俺の目立つに隔たりがある。
駄竜と価値観を合わすことは諦めているが、彼女とは目線を合わせることができると思っているんだ。同じ人間……ではなくドラゴニュートだけど、人間に近い種族だろうから。
駄竜は生物として別種すぎて無理だ。何でも力にものを言わせばいいって考えだからさ。ドラゴンは生まれながらに絶対的な力を持ってるんだから理解しろと言っても仕方ない。
彼には俺とベルヴァ以外の者に語り掛けるなと言っておくだけで事足りる。
よし。長考しているうちに案が浮かんだぞ。
「俺が王国語? もドラゴニュートの言葉も喋れないことを知られたくない。だからなるべく他者と波風を立てたくないんだ」
「××××××××」
『浅慮申し訳ありません。カードのことを聞く以外で関わらないようにいたします』
目の前に見えたことだけど伝え、彼女も理解を示してくれた。とりあえずは「良し」だ。
例のパーティが受付のところから解散し、野次馬たちも完全にはけててるまで隅っこで待機した。
「そろそろ行こう」
彼女の手を引き、今度こそカードの出自を聞くべく受付に向かう。
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