第14話 街を目指すぜ
笛の音は確かに響き渡った。駄竜が尻尾をびったんびったんと地面に叩きつけているのがその証拠だ。
「もう一回吹いてみない?」
「××××」
『構いませんが、連続で吹いても余り変わりはないかと』
「打ち上げられた魚みたない動きが面白いかなって」
ようやく復活した駄竜が前脚をワナワナと震わせ、俺の脛に齧りついてきた。
「何だよ。ファフサラス。今度は俺が吹いてやろうか?」
『やめい。耳障りなうえにこの姿になる前の我の一撃より大きな音がする』
「天井が崩れた時より?」
『比べ物にならん』
「そうかあ。もう一回吹いてみようかなー。冗談だって。火事は禁止な」
拗ねた駄竜が森に火を放とうとしやがったので慌てて奴の口を塞ぐ。
離してやってもまだ収まらない感じだったので、猿ぐつわをかまして尻尾を掴んで宙吊りにしてやろうと思ったけど、俺が原因だったので自重しておいた。
ブレスを吐こうとしたら光の速さで縛るつもりだけどね。
アイテムボックスの中に水があるけど、大火事を鎮火するなんてことはできようもない。
駄竜と睨み合いながらしばらく経過すると、ガサガサと繁みが揺れる音が耳に届く。
ノソノソと出てきたのは二体。どちらも爬虫類だと思う。
一体はずんぐりとしたアルマジロに似たくすんだオレンジ色の表皮をした爬虫類で、馬くらいの大きさかな。
といっても馬のように脚は長くなくて、丸太のような脚は俺の太ももくらいまでの長さだ。足とか顔の造りがアルマジロとは全然異なる。
顔は亀のようだし、尻尾も分厚くて短い。まあ、アルマジロは哺乳類だし、作りは違っていて当然か。
もう一体はスラリとした二足歩行の獣脚類恐竜に似ていた。大きさはダチョウより一回り大きいくらい。
「ぐるるる」
「ぐああ」
二体はベルヴァに向け顎を突き出し、喉を鳴らす。
対する彼女は二体の額にちょんちょんと指先をつけ、にこやかに微笑む。
「×××××」
『この子たちが馬車を引っ張ってくれますよ』
「驚いた。この二体を飼っていたのか?」
「××××××××」
『いえ、笛で呼んだのです。近くにいた友好的なリザードが来てくれたのです』
「それが竜の巫女の力ってか。すげえ」
「××××××」
『竜の巫女は竜の眷属を従わせることができるんです。自分より力が弱いか大人しい竜に限りますが』
「ベルヴァはいいとして、肉食で獰猛な爬虫類で人に襲い掛かったりしないのかな?」
「××××、××」
『獰猛なリザードも従わせることはできますが、状況によりけりです』
「ずっと付き従わせることもできるの?」
「××。××××」
『はい。ずっと一緒にいればより強い信頼関係を築くことができます。私とよばれた子の相性もありますが』
正直、とても羨ましい。竜の眷属というのは爬虫類全般と認識しておけばいいか。
空を飛んでいた翼竜みたいなやつも連れ歩いたりできるんだよな? すげえ。
ハムちゃんも可愛いけど、ぐるぐると喉を鳴らす恐竜も悪くない。
彼女の真似をして二足歩行の方の喉を撫でようとしたら、威嚇してきて噛みつかれそうになった。
彼女はといえば、並んで大人しく待っている二体から一歩下がり小さく手を振る。
「連れて行かないのか?」
「××××××!?」
『え、いいのですか!?』
ぱあっと彼女の顔が明るくなり、緑の尻尾がパタパタと揺れた。
しかし、ご機嫌な尻尾の揺れがピタリと止まる。
「××××××」
『ヨシタツ様の邪魔になります』
「街に行くまではアイテムボックスの中で少し我慢してもらわないといけないかな。二体とも抱えての跳躍……はできる、な。だけど、落ちちゃったら大変だ」
「×××、×××……」
『やはり、飛んでいくのですね……』
「街に近寄るまではと思ってた。街に行ったら仕入れもできるしさ。中を充実させて暮らせるようにもできるし。街からなら馬車で移動しつつ秘宝探しもいいなって」
「××××。××××」
『お言葉に甘えて、この子を連れて行ってもいいですか?』
アルマジロ風の爬虫類に目を向けるベルヴァ。
そんな彼女に対し柔らかに微笑み、二本の指を立てる。
「二体とも連れて行ったらどうだ?」
「××××××××××」
『ケラトルは馬車を引くことができます。ですが、ドロマエロは騎乗こそできるものの、馬車は引けません」
「いいんじゃないか。俺もドロマエロに乗ってみたいけど、難しいだろうなあ。ベルヴァなら専用の装具があれば騎乗できそうか?」
「××××!」
『できます!』
「じゃあ、連れて行こう。悪いけど、しばらくアイテムボックスの中な」
新しく「ベルヴァのペット」のフォルダを作成し、そこにアルマジロ風のケラトルと二足歩行のドロマエロを収納した。
時間停止状態なので腹が減ることもない。
夜になったら「夢のスローライフ」フォルダに移動させてもいいけど、ハムちゃんが心配だよな……。悩ましい。
後で彼女に相談しよう。
◇◇◇
「当たる、当たる。いけええ。駄竜ブレス!」
進行方向に空飛ぶ蛇発見。急速接近中。
ベルヴァには後ろから俺の腰に足をかけて自分でしがみついてもらって、俺はファフサラスの照準を合わせ口を開かせる。
ゴオオオオオ。
よおし、いいぞ。バッチリ、指示通りだ。
ブレスは広がらず、レーザーのように発射される。
駄竜の首根っこを右から左に動かすとブレスも右から左にスライドした。
その先は空飛ぶ蛇の首元で、見事に首を落とす。
慣性に従い、蛇に接触したところで収納し今晩のおかずをゲットした。
「よし、この蛇はファフサラスにあげるよ」
『当然だ。我が倒したのだからな』
ガハハとご機嫌であるが、蛇はおいしくなさそうだし、押し付けるつもりだったなんて言い方はしないのだ。
喜びながら食べるがいい。
「××××!」
『前を見てください!』
「へ?」
う、うおお。また斜面かよ!
自然というのはこれだから厄介だ。高いところもあれば低いところもある。
ある程度より高くなると視界良好で快適なのだが――。
「××××!」
『ぶつかります!』
「うおおらああ!」
岩肌を蹴って高く飛び上がる。
すまないな。俺は慎重な男、考え事も多いの……っつ。またしても障害物ならぬ巨大な怪鳥!
駄竜ブレスならぬ駄竜レーザーで怪鳥を仕留め、回収する。
シュタ。無事、草むらの中に着地した。
日も陰って来たし、この辺で今日のところは終わりにしておこうか。
腰から固定していたベルヴァの足が離れ、彼女が大きく息をつく。彼女には長時間しがみついてもらっていたんだよな。
腕とか足とかパンパンになっているんじゃないだろうか?
「今回は飛び上がり過ぎたよな。すまん」
「××××」
『平気です。倍の時間でも全く問題ありません』
俺の前に回り込み、自分の腕をポンと叩くベルヴァ。
無理して言っているようには見えない。でも、大きく息を吐いていたからなあ。相当疲れているんじゃ……身体的じゃなくて空中で無茶し過ぎたからか?
いやいや、効率良く獲物を狩れたじゃないか。
冷や汗をかく俺の様子を察した彼女が話題を変えてくる。
「×××××」
『ここからは歩いた方がいいかもしれません』
「え? 族長が二週間以上かかるって言ってたよな」
「×××××。××……」
『徒歩で進んだ場合です。あ……いえ、あの』
「悪気はないって分かってるから、気にしなくていいよ。そうか、明日には街に到着できそうな感じなのかな」
コクリと頷く彼女に俺のテンションが上がった。いよいよ、街か!
ジャンプで進むと早いな。直線距離で進むことができるからかもしれない。
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