第1-8話

 閉塞感のある部屋の中で突然、不規則に点滅し始める照明器具に何が起こっているのか戸惑う衛は恐怖からその場で身動き一つできずにいた。


 金属が高鳴りしているような耳鳴りが衛を襲い始めると同時に、先程から異様な点滅を繰り返す天井の蛍光灯が破裂音と共に砕け散った。


「うぁ! 痛え!」


 天井の照明器具のカバーと蛍光管の割れた破片が衛の頭上へと落ちてきた。


 幸いなことに真っ暗な部屋の中でも手元に握られていたスマホの明かりでかろうじて辺りを見渡せた。


「痛い!」


 机の上に手をついた途端、刺すような痛みに襲われ、慌ててスマホの明かりで痛む掌を確認する。


 すると、先程の割れた蛍光管の硝子の欠片が衛の掌に深く突き刺さっている。


「マジかぁ……ついてねぇーなぁ……」


 そう言いながらおそるおそるその硝子の破片を肉から抜き取った。


 意外と深く突き刺さっていた鋭利な先端の硝子の破片を忌々しく机の上に放り投げ、掌から脈打つ毎に流れ出す鮮血を眺めた。


 机の上に次第に血溜まりが広がる光景が薄暗い光の中で鮮やかにそして生々しく辺りを彩った。


 暗い廊下から床板を踏み鳴らし近づいて来る気配を感じ、衛はスマホの明かりでゆっくりと暗闇を照らしてみた。


「……な、何だ!? ……誰か、居るのか!?」


 目の前の漆黒の闇はその問いかけに何も答えなかった。


 先程まで鳴り響いていた金属音は蛍光灯の破裂音と共に止み、静寂の中で暗い廊下から床の軋む不快な音が衛の元へと近づいて来る。


「……何なんだよ! こっちに来るな! 来ないでくれ!」


 震える手で握られているスマホの明かりは廊下と部屋の境で黒い人影として姿を現した。


 黒い人影は衛の居る居間へ入ると、居間と廊下を仕切る扉が弾かれるような勢いで閉まった。


 衛はその激しい音に飛び上がりそうなくらい驚いた。


 その黒い影は壁に沿って移動し、衛はそれをスマホの明かりで必死に追いかけた。


 震える手から滑り落ちるようにスマホが床に落ちてしまい、その瞬間辺りを照らす明かりも消えてしまった。


「……マジかよ……早く明かりを……」


 暗闇の中、手探りでスマホを探し慌てて明かりをつけると衛の顔を覗き込むように山羊のような黄色い眼をした青白い顔をした人の顔が目の前にあった。


「うわぁー!」


 衛は叫び声を上げ、体勢を崩したまま後ろに仰け反ると背中に何かがぶつかった違和感を感じた。


 慌てて振り返ると、そこには先程まで目の前にあったのと同じ黄色い眼が衛をじっと見据えて、無機質な表情で微笑んでいたのだった。



 


 

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マサミ 江渡由太郎 @hiroy

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